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第55話 9人で買い物

誤字報告ありがとうございます、いつも助かってます。

 4人で善司の家に戻り中に入ると、待ってましたとばかりにイールとロールが食堂から飛び出してきた。2人ともチサがどんな服装で帰ってくるか、楽しみにしていたからだ。



「ただいま、みんな」「いま戻ったのじゃ」


「「……お、おじゃまいたします」」


「おかえり! わー、チサちゃん可愛い!!」

「イーちゃん、それよりも知らない人がいるよ」

「あれ!? ホントだ」

「すごく綺麗なお姉さんだね」


「お帰りなさい、ゼンジさん、チサさん。

 えっと、そちらの双子の方はお客様ですか?」


「……お帰りなさい、ゼンジさん、チサさん」

「……いらっしゃいませ、この国にまだ双子の人が居たなんて凄いです」



 家に居た全員が次々現れ、チサの姿を嬉しそうに見つめ、近くに立つヘルカとトルカに驚きの表情を向ける。



「この2人は南の方にある国から隣の家に引っ越してきた、ヘルカさんとトルカさんと言うんだ」


「はじめまして皆様、わたくしの名前はヘルカと申します。

 わたくし達は南にあるフンドラ公国から、この国に移住してきましたの」

「わたくしはトルカと申します。

 知らない事ばかりで、ご迷惑をおかけしてしまうと思いますけれど、よろしくお願いいたしますわ」


「いま隣の家を見てきたんだけど、双子に使えない設備ばかり揃ってて、玄関の鍵すら開けられない状態だったから、しばらくウチで生活してもらおうと思うんだけど構わないかな」


「それなら大歓迎だよ!

 私の名前はイール、よろしくねヘルカちゃんトルカちゃん」

「私はロールだよ。

 隣の家に住めないんだったら、うちの家族になっちゃってもいいよ」


「お隣に双子が引っ越してくれるだなんて、とても素敵だわ。

 こんな幸運が立て続けに起こるなんて夢のよう……

 私はゼンジさんの妻で、イールとロールの母のハルというの、ヘルカさん、トルカさん、よろしくお願いしますね」


「……私もゼンジさんの妻でニーナといいます、よろしくお願いします」

「……同じくゼンジさんの妻でホーリといいます、ヘルカさん、トルカさん、よろしくお願いします」


「凄いですわ、奥様が3人もいらっしゃるなんて」

「ゼンジさんは貴族ではなのですよね?」


「俺はただの一般人だよ」


「変態じゃがな」


「それは誤解だって。

 とりあえず座って話をしようか」


「ならみんなで食堂に行きましょう、お二人の分の食事も作ってしまいますから、そこでゆっくりお話をするのがいいと思いますよ」



 ハルの提案で全員が食堂に行き、テーブルを挟んで座る。人数も増えてきたので、チサを挟んで善司とハルが座り、その横にニーナとホーリが、テーブルを挟んで真ん中にヘルカとトルカが座り、左右にイールとロールが別れて座った。


 自分たちの簡単な境遇や仕事の話し、お昼を一緒に食べてもらったが、ヘルカとトルカにも好評で、お代わりも勧められて全て平らげていた。お嬢様っぽい口調の2人だが、体を動かすのが好きで農作業もこなしていたため健啖家(けんたんか)だった。健康的に焼けた肌は、南国の日差しの中で野外作業をやっていたからだ。



「とても美味しい食事でしたわ」

「国が違うので心配でしたけど、皆さんお料理が上手で驚きました」


「そうじゃろ、ワシもこの料理があるから、ここで一緒に暮らす事にしたくらいじゃ」


「お二人のお口に合ってよかったわ」


「それにハルさんがゼンジさんより歳上なのも驚きましたわ」

「てっきり、わたくし達と同い年くらいかと思っておりました」


「お母さんは10年くらい、ほとんど変わってないんだって」

「すっと綺麗なままなんだよ」


「……イールちゃんとロールちゃんにも、精霊の血が混じってるみたいなんです」

「……きっとハルさんみたいに、綺麗な時期が長いと思います」


「ワシには敵わんがな」


「チサはもうちょっと成長してもいいと思うけどな」


「ワシくらいの容姿が好みのゼンジには、ぴったりではないか」


「だから、それは誤解だって言ってるだろ……」



 少し前までは容姿の事を言われると激昂し反論していたが、いまではすっかり善司をからかうネタにしてしまっている。2人の出会いは、こうした部分にも大きく影響を与え始めていた。



「皆さんの関係はすごく不思議ですわ」

「そうですわね、様々な立場や境遇の方がいらっしゃるのに、皆さんには家族以上の繋がりを感じますの」


「……それは、みんなで一緒にお風呂にはいったり、ゼンジさんのベッドで一緒に寝たりするからだと思います」

「……私たちもこの家に来て、それがきっかけで家族になれました」


「ワシもここに来た日に、いきなり混浴を体験させられて、あまつさえ添い寝も強要されたの」


「チサもちゃんと同意してくれたじゃないか」


「ワシとしては言いくるめられたり、無理やり納得させられた気がしてならんのじゃがな」


「ますますわからなくなってきましたわ」

「わたくし達は別の国の人間ですから、理解できないのでしょうか」


「それならトルカちゃんもヘルカちゃんも、一緒にお風呂に入ってみたらいいんじゃないかな」

「ここの風呂はすごく大きくて気持ちいいから、きっとそれでわかると思うよ」


「そこまで言われると興味が出てきますわ」

「この家でしばらくご厄介になるのですし、この謎は解明しておきたいですわね」


「2人とも、俺も一緒だけど構わないのか?」


「この状況を生み出しているのが貴方なのは間違いないのですから、遠慮せずにご一緒してくださいな」

「そうですわよ、ここまで来て怖気づくのは男らしくありませんわ」



 元いた国で、かなりワイルドな生活の経験がある2人は、好奇心を優先させて一緒にお風呂に入る事を同意する。こうなっては善司にそれを拒否する理由は存在しなかった、ここに居る女性陣の中で一番の戦闘力を持つ部分があったとしてもだ。



「それでしたらゼンジさん、お二人の生活に必要なものを今から買いに行きませんか?」


「そうだな、優先順位の低いものは追々揃えていくとして、この家で使う分は俺たちで買ってしまうか」


「ワシも買いたい物があるし、今回はまとめてこのチサ様に任せるがいいぞ」


「あの、何もかもそちらにご面倒をおかけするわけにはいきませんわ」

「それに、わたくし達も手持ちのお金がありますので、ちゃんと支払わせて下さいまし」


「その気持はありがたく受け取らせてもらうけど、自分たちのお金は当面残しておいてくれないか」


「それはどうしてですの?」

「何か理由がおありですのよね」


「さっき2人が言ってただろ、お祖父さんは隣の家を売って生活資金にして欲しいと願っていたって」


「はい、お祖父様はそれを望んでおられましたわ」

「私たちの生活が困った時のために、残してくださったと言っておられました」


「でもヘルカとトルカはそうしたくないから、双子が冷遇されるこの国に来て家を守っていこうと決めた。

 それなら、そのお金は家を維持していくために使って欲しいんだ」


「適度に手入れせんと、家はどんどん傷んでいくからの。

 さっき見た限り、しばらく掃除もしとらんようじゃし、まずはそれに使うのが良かろう」


「この国でこんなに親切にしていただけるなんて、思ってもおりませんでしたわ」

「お祖父様は本当に素晴らしいものを残してくださいましたわね」



 自分たちの居た国でも双子の立場はあまり良くなかったが、それより悪い扱いを受けると噂されていたこの国に来るのが不安だったヘルカとトルカは、こうして出会えた隣人たちに感謝しつつ、今回はその言葉に甘える事にした。



◇◆◇



 新しい知り合いが出来てニコニコ顔のイールとロールに、2人にお菓子作りの知識があると聞いて期待に胸を膨らませているニーナとホーリは、それぞれが一人づつに別れて手を繋いで歩いている。


 隣の住人が双子だとわかって大喜びのハルと、歴史上初めてになるだろう3組の双子が集合するという事態に遭遇して上機嫌のチサは、善司と手を繋ぎながら後ろをついて歩いていた。



「ゼンジと暮らし始めてから、お友だちがどんどん増えてすごく楽しいね」

「お姉ちゃんが4人も出来ちゃった」


「わたくし達も可愛い妹が出来たようで嬉しいですわ」

「イールちゃんとロールちゃんは、とても元気でいいですわね」


「……ヘルカさんやトルカさんみたいに綺麗なお姉さんが出来て、私たちも嬉しい」

「……それに、お菓子の作り方を教えてもらえるのがすごく楽しみ」


「皆さんのために出来る事があって良かったですわ」

「あまり凝ったものは作れませんので、その点だけはご容赦くださいな」


「出来たてのお菓子がいつでも食べられるというのは、ワシも楽しみじゃ」


「必要な道具や材料も買って帰りましょうね」



 全員で仲睦まじく話をしながらよろず屋に向かっているが、3人づつに別れた6人の双子と人目を引くようになったチサの影響で、人々の視線を大きく集めている。しかし、一緒に歩いている善司の事を知っている住民は、どことなく納得顔になっていた。


 この街限定の現象ではあるが、奴隷商の従業員たちが流す噂話や、よろず屋の親父が善司の事を面白おかしく吹聴するので、徐々に白眼視されにくくなってきているのだ。



◇◆◇



「うぉっ、また凄い事になってるじゃねぇか、一体どうしやがったんだ」


「20年ぶりくらいじゃな、元気にしておったか?」


「チサの嬢さんまでいるのか、この子達はあんたが連れてきたのか?」


「いや、外国からこの街に引っ越してきたんだが、ちょうど家の隣だったから一緒に買物に出てきたんだ」


「ワシもこの2人も、ゼンジの家で暮らしていくことにしたんでな」


「しばらくゼンジさん達の所でお世話になる事になりました、トルカと申します」

「わたくしはヘルカと申します、お見知りおきくださませ」


「おいおい、兄さんの所には大陸中の双子が集まってるんじゃねぇか?」



 店に到着した9人を迎え入れたよろず屋の親父は、今までのように口を大きく開けて驚く顔は見せなかったが、座っていた椅子から立ち上がり、善司たちの方を食い入る様に見つめている。



「ワシもゼンジと知り合うまで双子を見た事は無かったんじゃが、一気に3組と知り合えたから驚いておるよ」


「王都に居たチサの嬢さんですら知らねぇんだから、今この街で起きてる事は異常だぜ」


「チサはここの親父さんと知り合いだったのか?」


「スノフ爺を通じて面識があったくらいじゃが、こやつの若い頃も知っておるぞ」


「しかし、チサの嬢さんも(めか)し込みやがって……

 それに、わざわざこの街に戻ってきて一緒に暮らすたぁ、兄さんに惚れちまったのか?」


「バカを言うでない、ワシがそんなつまらん理由で戻ってきたりするか!

 ワシに惚れとるのはゼンジの方じゃし、一緒に暮らすのは仕事に集中するためじゃ」


「兄さんの守備範囲は広すぎて、俺には理解できねぇぜ」



 よろず屋の親父は善司と、周りに並んでいる女性陣を見ながら、そんな言葉を口にする。チサの素性は知っているが、昔の記憶そのままの姿で立っているのは、やはり違和感が拭えない。しかし、身だしなみを整えて、どこか楽しそうに話す姿には、不思議な魅力を感じていた。



「なんかそう言われ続けてると、ほんとに惚れてる気になってきたよ」


「今日のチサちゃんは可愛いから、本気でそう思えてきたんじゃないかな」

「服もすっごく似合ってるし、そう思えちゃうのも仕方ないよ」


「こら、お主たち、両方から抱きつくでない」


「……抱き締めたくなるのはすごくわかる」

「……うん、それくらい今日のチサさんは可愛い」


「頭を撫でるのもやめんか、それに4人もくっつくと暑苦しいわ」



 周りを取り囲まれてもみくちゃにされてるチサが、鬱陶しそうにその手から逃れようとするが、4人は気にせず撫でたり抱きしめたりを繰り返している。



「すごく仲が良くて羨ましいですわ」

「本当の姉妹みたいですわね」


「お主たちも見とらんでワシを助けんか!」


「暴れるから髪の毛が乱れてきたじゃないか、直してやるからこっちに来てくれ」



 そろそろ臨界点を超えそうな気配を感じた善司が、チサの手を取って4人の輪の中から連れ出すと、ヘアクリップを一度外し手櫛(てぐし)で髪を整えた後に装着し直す。



「お前ら人の店の前でイチャイチャしやがって、営業の邪魔しに来やがったのか!

 今日もまけてやるから、大量に買ってとっとと帰りやがれ」



 何だかんだと理由をつけて割り引いてくれる親父の一喝で、必要なものを買い揃えると店を後にする。お菓子作りに使う道具や材料を揃えに他の場所も回ったが、ハルや善司たちがよく顔をだす店は、驚きつつも新しく増えた双子にも友好的で、ヘルカとトルカは今まで聞いていたこの国の噂とに違いに驚いていた。


 そして、国外から来た双子の噂は一気に街中へと広がり、善司の二つ名が更に知れ渡る結果を生み出した。


資料集の更新はこの章の最後にあたる第57話と同時に行います。

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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
異世界転移に巻き込まれた主人公が
魔法回路という技術の改造チートで冒険活動をする物語
回路魔法
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