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第36話 6人で買い物

平成最後の日曜日ですね。

とは言っても、いつもと特に変わらず平常運転ですが(笑)

 翌朝、台所で朝食を作るハルと、その姿を見ながら話をしていた善司の所に、起きてきたニーナとホーリが現れ、入り口からそっと覗いていた。



「おはよう、ニーナ、ホーリ」


「おはよう、ニーナちゃん、ホーリちゃん」


「「……おはようございます、ゼンジさん、ハルさん」」


「よく眠れたかい?」


「……はい、ぐっすり眠れました」

「……ベッドもすごく気持ちよかったです」


「良かったわ、もうすぐ朝ごはんが出来るから、ちょっとまっていてね」


「「……何か手伝えることはありますか?」」


「そうね、出来上がったものを運んで並べてもらえるかしら」


「「……はい」」


「ゼンジさんはイールとロールを起こしてきてもらえます?」


「わかった、行ってくるよ」



 台所に入ってきたニーナとホーリの頭を軽く撫でて、善司は二階へと上がっていく。撫でられた2人はお互いの顔を見ながら、とても嬉しそうな笑顔で頬を染めている。


 その姿を見たハルは、やはりこの2人も善司の事を好きになってしまったんだと思い、朝から幸せな気持ちに包まれていた。



◇◆◇



「「おはよう! ニーナちゃん、ホーリちゃん、お母さん」


「「……おはよう、イールちゃん、ロールちゃん」」


「おはよう、イール、ロール。

 顔は洗ってきた?」


「「うん! 今日はバッチリだよ」」


「イールとロールはしょっちゅう忘れるからな」


「滅多に忘れないよー」

「ゼンジは適当なこと言わないでよー」


「そうだったな、悪い悪い。

 さぁ、朝ごはんを食べようか」


「「そうだね、じゃぁ、いただきます」」


「「……いただきます」」



 全員でいただきますを言って、食事を食べ始める。ニーナとホーリは昨日と同じ様にイールとロールに挟まれて座り、いつか自分たちもあんな風に言い合える気心の知れた関係になりたい、今のやり取りを見ながらそう思っていた。



「ニーナちゃんとホーリちゃんはスッキリした?」

「仲良くなれたでしょ」


「……うん、2人の言った通りだった」

「……背中を押してくれてありがとう」


「「どういたしましてだよ」」


「……ゼンジさんとハルさんに頭を撫でてもらったよ」

「……すごく気持ちよくて安心できた」


「わかるよそれ、私たちも撫でてもらうの、すごく好きだから」

「ゼンジは大きくて、お母さんは優しくて、どっちも捨てがたいよね」


「……ゼンジさんに撫でられると、元気をもらえる」

「……ハルさんに撫でられると、とっても気持ちが落ち着く」


「ニーナちゃんとホーリちゃんも、同じ気持ちになってくれて嬉しいよ」

「これからもゼンジやお母さんに、いっぱいなでなでしてもらえるように頑張ろうね」


「「……うん!」」



 昨日4人で話した時に、これからは敬語は無しでと言った約束を守って、ニーナとホーリも2人きりの時に話す口調で会話を続けている。


 一晩ですっかり打ち解けあった4人を、善司とハルは顔を見合わせて微笑みながら見守っていた。



◇◆◇



 食事の後は全員で片付けを済ませて、買い物のために街へ繰り出す。イールはニーナに、ロールはホーリの腕につかまって、ニコニコしながら歩いている。


 善司とハルは2人きりで出掛ける時と同じ様に、手を恋人つなぎして前を歩く4人の後ろをついて行っている。



「ねぇゼンジ、前に服を買ったお店でいいんだよね」

「あそこは色んな服があって楽しかったね」


「あぁ、あそこでニーナとホーリの服や靴と装飾品(アクセサリー)も買おうと思ってる」


「……あのゼンジさん、服だけでもかまいませんよ」

「……装飾品は贅沢すぎます」


「こうして初めて家族で買い物をする記念だから、遠慮することはないよ」


「私たちも身に着けているから、あなた達もそうして欲しいわ」


「お母さんとゼンジは、お揃いの首飾りをつけてるんだよ」

「私とイーちゃんは、花の髪飾りにしたの」


「……2人のつけてるの凄く可愛い」

「……それにゼンジさんとハルさんのも、よく似合ってる」


「ニーナちゃんとホーリちゃんも素敵なの選んでね」

「色々置いてあったから、きっと気に入るものが見つかるよ」


「……少し楽しみになってきた」

「……こんなに楽しい買い物は初めて」



 自分たちの身の上話をして、生まれて初めて庇護者(ひごしゃ)という味方を得たニーナとホーリは、見違えるように感情が表に出てきている。儚げだった印象も薄れて、白銀の髪や色白の肌が(かも)し出す清楚で可憐な姿は、道ゆく人を振り向かせるだけの魅力がある。


 そして二組の双子が一緒に歩いているという、この世界ではまず見ることが出来ない光景に、ほぼ全員が足を止めて見つめてくる。しかし昨日とは違い2人は怯える事もなく、新しく出来た家族と笑顔で話をしながら歩いていた。



「家族が増えるっていいですね」


「家事の負担を増やしてしまうのは申し訳ないと思うけど、賑やかになるのは楽しいな」


「家の事は気にしないで下さい、むしろ人数が増えて楽になるくらいですから」


「毎日の家事に余裕ができて自由に使える時間が増えるなら、みんなのやってみたい事を探してみてくれるか?

 趣味を見つけてみるのもいいし、勉強や手芸みたいな事でもいいし、庭に花壇や畑を作ったりするのでも構わないから」


「今まで考えもしなかった事ですから、時間はかかるかもしれませんが、みんなで探してみますね」


「俺も協力するから、充実した毎日が送れるように、そうして欲しい」


「ゼンジさんのそういう所、大好きです」


「可愛い奥さんと、大切な家族に幸せになってもらうのが、俺のやりたい事だからな」



 ハルは手をつないだままの姿勢で腕に抱きつき、善司はそのまろやかな感触を楽しんでいる。すれ違う人たちは二組の双子に驚き、その後ろを歩いている男女の甘い空気に当てられ、何かを叫びたげな表情で遠ざかっていく。



「……ゼンジさんとハルさんて本当に仲良し」

「……私たちもあんな風になりたい」


「お母さんとゼンジは、私たちの考えてる理想の夫婦なんだ」

「あの2人みたいになるのが私たちの夢なんだよ」


「「……うん、それは凄くよくわかる」」



 前を歩く4人がそんな会話をしていたが、2人の世界に入ってしまった善司とハルに、その言葉と視線は届いていなかった。



◇◆◇



「いらっしゃいま……せ!?」


「こんにちは、家族が増えてまた色々と買い揃えたいので、見せてもらいます」


「……し、失礼しました、お客様。

 いつもありがとうございます、ごゆっくりお買い物をお楽しみ下さい」



 服飾雑貨の店に入ると、さすがの店員もいつものテンプレ対応が崩れ、驚きの表情で固まってしまった。善司はそんな店員の態度を軽くスルーして、全員で服のコーナーへと移動していく。


 奴隷商から持ってきた2人の着替えは、肌着類の充実度に比べ普段着になりそうなものが無かったので、今回はそれを買い揃える予定にしていた。



「……ゼンジさんは、どんな服がお好きなんですか?」

「……聞かせて下さい」


「ニーナとホーリの好きなものを選んだらいいけど、やっぱり2人もスカート姿が似合うと思う」


「お母さんと同じふわっとしたのが似合いそう」

「私たちが着てるようなのも試してみてね」



 ハルの着ているフレアスカートや、イールとロールの着ているジャンパースカートを手にとって、体に当てたりゼンジやハル達に意見を求めたりしながら、ニーナとホーリは服を選んでいった。


 派手なものを好まない2人は、ロングのワンピースやAラインスカート、長袖のブラウスやゆったりしたシャツを数点選び、靴も選んだ後に装飾品コーナーへ向かった。



「ニーナとホーリは同じ色の服が好きなんだな」


「……はい、私たちはずっと一緒のものばかり着ていたので」

「……同じ物の方が落ち着くんです」


「そのへんは私たちと違うね」

「同じ双子でも違う部分があって面白いね」


「……装飾品も同じものがいいんだけど」

「……つける場所を変えようかなって思ってるの」


「もしかして、私たちに気を使ってくれた?」

「すぐわかるようになるから大丈夫だよ」


「……それも少しだけあるけど、ちょっと違う理由なの」

「……イールちゃんとロールちゃんを見てると、ちゃんと個性があっていいなって思うから、私たちも見た目で少し真似してみたかったんだ」


「私もゼンジさんのように出会ってすぐには無理だから、そうしてくれるとすぐに判ってあげられるようになるわ」


「あれはゼンジの特技だからね」

「真似できる人なんて居ないよ、きっと」


「俺もこの特技がこれだけ生活に関わって来るなんて、思いもしなかったよ」



 ニーナとホーリは善司に向かってニッコリと微笑み、装飾品選びを開始した。その笑顔は、この時間を心から楽しんでくれているのがわかる素敵なもので、善司の心を満たしてくれると同時に、彼女たちに感じていた魅力を再認識する事になった。



◇◆◇



 二人はしばらく色々な装飾品を見ていたが、ある場所で立ち止まって商品をじっと見つめている。金属を円筒形の翼のように加工して、中心に赤い宝石をあしらったシルバーのイヤーカフだった。飾り気はあまり無いが、宝石がアクセントになっていて、とても上品でおしゃれだ。



「それは耳に付ける装身具みたいだけど、気に入ったかい?」


「……はい、一対のものを2人で身につけられるのが素敵です」

「……それに、とっても可愛くて赤い石がきれい」


「なぁハル、耳の装身具を片方だけ身につける事に、特別な意味があったりするか?」


「いえ、そんな話は聞いた事がないです。

 兄弟や夫婦でそういった付け方をする人もいますから、2人にはぴったりだと思いますよ」


「そうか、実際に付けてみて違和感や痛みがなかったら、それにしようか」


「「……はいっ」」



 花の咲くような笑顔を向けてくれたニーナとホーリに善司も微笑み返し、鏡に向かってイヤーカフを試着している2人を眺めながら待つ。耳を触ったり軽く引っ張ったりしているが、「これに決めました」と言って持ってきたので、服や靴も一緒に会計に向かった。



「多数のお買い上げ、誠にありがとうございます」


「また着替えをしてから帰りたいんですが、構いませんか?」


「はい、あちらの小部屋をご自由にお使い下さい」


「みんな、俺は支払いを済ませておくから、向こうの部屋で着替えてきてくれるか」



 女性陣5人で、どの組み合わせにしようか相談しながら、着替えの出来る小部屋に入っていく。善司は支払いを済ませて、お釣りを受け取っているが、店員にじっと見つめられている。



「やはり気になりますか?」


「前回お越しいただいた時も大変驚きましたが、今回はそれ以上に驚きました」


「気づいていると思いますが、彼女たちは少し事情があって俺たちの家族になったんです」


「何があったのかは私にはわかりませんが、あの様な立場にもかかわらず笑顔で居られるというのは、考えられない事です」


「一緒に暮らすからには、全員が笑顔で居られるのが一番ですから」


「お客様のお噂は街でもよくお聞きしますが、そのお考えはとても素晴らしいと思います」


「そう思ってらえる人が居るのは嬉しいですね」



 こうして、少しでも双子やその母親に対する認識が変わってきているのを実感するたびに、善司は自分の信念に従って生きている事への自信が出てくる。この世界の常識を受け入れるようにしようと思っているが、絶対に認められない部分は持ち続けていこう、改めてそう決意した。



◇◆◇



 しばらく待っていると、奥の扉が開いて5人が店内に出てくる。ニーナとホーリは、ハルやイールとロールの後ろに居て、善司からはまだ頭の部分しか見えない。



「着替えが終わったよ、ゼンジ」

「やっぱりお姉ちゃんたちは大人だし、綺麗だよ」


「こうして着飾ってみるとすごく美人で、私も羨ましいです」


「……そんな、ハルさんにはまだまだ敵いません」

「……あの、どうでしょうか、ゼンジさん」



 3人の後ろからゆっくりと前に出ててきたニーナとホーリは、Aラインのスカートにブラウスを合わせて、少し(かかと)の高いパンプスを履いているが、着ているものが違うだけでずいぶんと印象が変化する。


 奴隷商から与えられた服は、少しゴテゴテとして野暮ったい感じだったが、こうして清楚な衣装に身を包んだ2人は、自身の持つイメージにぴったりで、魅力が更に増して見える。


 特に細くてサラサラの髪の毛の間からチラチラと覗く、イヤーカフと赤い宝石が2人をぐっと大人びた印象にしていた。



「うん、とても綺麗だし、よく似合ってる。

 2人の持っている印象と調和してるから、大人っぽさが増して驚いたよ」


「「……ホントですか! うれしいです」」



 2人は小走りに善司に近づくが、履き慣れない踵の高い靴のせいで少しバランスを崩して、胸に飛び込む格好になってしまう。



「大丈夫か2人とも」


「……すいません、まだこの靴に慣れてなくて」

「……ご迷惑でなければ、手を繋いで歩いてもらえないでしょうか」



 倒れそうになった所を優しく受け止めてもらい、頭を撫でられながら2人は善司にそうお願いをする。



「今から2人の生活に必要なものを買いに行くから、そうしようか」


「「……はい」」



 頬を染めて見上げてくる2人に善司は快く答えを返し、手を繋ぎながら店から出て少しゆっくりとしたペースで歩き始める。イールとロールはハルと手を繋いで後ろを歩きながら、嬉しそうに歩く2人に静かなエールを送っていた。


イールとロールは、普段は早起きして料理やお弁当作りに参加していますが、善司が休みの日はゆっくりと寝ています。


ちなみにこの作品に出てくる登場人物は、基本的に“ちょろイン”ですw

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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
異世界転移に巻き込まれた主人公が
魔法回路という技術の改造チートで冒険活動をする物語
回路魔法
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