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第34話 過去

流血表現がありますのでお気をつけ下さい。

 善司とハルはヘッドボードにもたれながら並んで座り、いつものように夫婦の時間を過ごしていた。ハルは腰に回された善司の手に自分の手を重ね、肩に頭をあずけて幸せそうにくつろいでいる。



「子供たちは何の話をしているんでしょうね」


「歳の近い者同士で話したい事があるんだろうけど、ちょっと想像できないな」


「イールとロールには友達が居ませんでしたから、同年代の2人が来てくれてとても喜んでるんです」


「快活な2人と大人しい2人で、正反対と言ってもいいくらい違うけど、姉妹として仲良くやってくれると嬉しいよ」


「娘たちは人の気持ちに敏感ですし、きっとニーナちゃんやホーリちゃんの事も大切にしてくれると思います」


「イールとロールなら、2人が抱え込んでしまっているものを引き出すきっかけになるんじゃないか、俺もそんな風に考えてる」


「ゼンジさんは何か聞いていますか?」


「誰かに甘えた経験が無いというのは聞いてるけど、それ以上は教えてもらってない。

 2人にも無理に話す必要はないと伝えてるし、時間はかかるかもしれないけど、これから何でも話せる関係になっていくつもりだよ」


「誰かに甘えた経験がない……ですか」



 ハルは以前に2人が母親に売られたと聞いた時、何か止むに止まれぬ事情があったのだと考えていたが、それは少し違っていたのではないかと思い直す。



「俺もその事に関しては色々と思う所はあるんだけど、子育ての苦労というのを知らないし、その母親の事はあまり悪く思いたくはないんだ」


「私も同じ母として言いたい事はありますが、ゼンジさんの意見に賛成です。

 どんな人物だったとしても、あの子たちにとっては唯一の存在ですから」


「俺はあの子たちが求める存在になってあげようと思う、それが父親なのか兄なのか夫なのかはわからないけど」


「そうしてあげて下さい、そんな貴方だから私も娘たちも好きになったんです、きっとあの2人もそうなってくれます」



 その時、部屋のドアからノックの音が聞こえた。善司が返事をすると、ゆっくりと扉が開いてニーナとホーリが部屋の中に入ってきた。



「……お二人の時間を邪魔してしまってごめんなさい」

「……少しお話させてもらっても良いですか?」


「あぁ、構わないよ。

 2人ともベッドの上においで」


「私も聞かせてもらってもいいのかしら」


「……はい、ハルさんにも聞いてもらいたいです」

「……2人が一緒に居るってイールちゃんとロールちゃんに聞いたから、ここに来たんです」



 ニーナとホーリはベッドの上に登ってくると並んで座り、善司とハルも居住まいを正して座り直す。



「話というのは何かな」


「……私たちの事についてです」

「……お二人に聞いてほしいんです」


「話すのは辛くない?」


「……ゼンジさんとハルさんになら大丈夫です」

「……ちゃんと話して、私たちの事を知ってほしいんです」


「「……そうすれば本当の家族になれる気がしたから」」


「わかった、話を聞かせて欲しい」


「わかったわ、聞かせてちょうだい」



 そして、ニーナとホーリは自分の母の事、そして奴隷になってからの事を話し始めた。




―――――・―――――・―――――




『あんた達さえ産まれてこなければ』



 それが母の口癖だった。


 物心がつく前から、何度も同じ事を言われ続けた。言葉がわかるようになると、双子という存在が魔操作の出来ない役立たずや半端者と言われていること。それに双子を産んだ母親は、一緒に居る男を不幸にする呪われた存在と言われている事も知った。


 だからお母さんは私たちの事を怒鳴るんだ、ずっとそんな罪悪感を心に抱いていた。



『この役立たず! そんな事もできないのか!』



 母は私たちが何か失敗するたびに、そう言って怒った。泣きながらなんど謝っても決して許してもらえず、部屋の隅で小さくなって、嵐が過ぎるのを待つしか無かった。


 しかし、時々物に当たり散らす母も、私たちを叩いたり蹴ったりはしなかった。ずっと不思議に思っていたけど、ある日それが判明した。



『あんた達は大事な商品だからね、傷をつけて価値の下がるような真似はしないよ』



 これを聞いた時には、もう母の言葉を十分理解できる年齢になっていた。そして自分たちは、誰かに売られるために育てられていたんだと判ってしまった――



◇◆◇



 私たちが15歳になってしばらくたったある日、母は朝からずっと上機嫌だった。


 私たちの名前を呼びながら、髪の毛を整えたり顔や手足を布で拭いたりしてくれた。私たちの名前を逆に呼んだり正しく呼んだり、15年間一緒に暮らしてきたけど目印になる物を身に着けたり、座る位置を決めていないと判ってもらえなかったのが悲しくなる。


 そして身なりのいい男の人が家に来て、母に何かを渡すと私たちはそのまま奴隷商に連れて行かれた。


 そこで自分たちの身分が愛玩奴隷になったと聞き、体を使って契約者に奉仕する事を教えられ、簡単な研修を受ける。すでに契約者が決まっていて時間が無いので、相手に逆らわずに何でも受け入れるようにとだけ念を押された。


 今まで身につけたことのない、手触りの良い肌着と綺麗な服を着せられると、背の高い年配の男性が迎えに来て、契約者の屋敷へと連れて行かれた。


 見るからにお金持ちだというのがわかる立派なお屋敷に着くと、大きなベッドのある部屋に連れて行かれ、主人が戻ってくるまで待っているように言われる。自分たちはここで何をすればいいのか、連れてきた男性に聞いたが、「お前たちはここの主人に買われたから、その体を使って満足させるように」としか言ってくれなかった。



◇◆◇



 部屋にあった椅子に座ってじっと待っていたが、外が暗くなっても誰も部屋には来なかった。正確には女の人が1人来て、パンとスープを渡してくれたが、私たちを気の毒そうに見るだけで、何も話してはくれなかった。


 そして静かな時間だけがどんどん過ぎていったが、乱暴に開かれた扉の音でその静寂は破られた。



「うひっ、双子と聞いていたが、本当にそっくりだな」



 扉から入ってきたのは、太ってお腹の出た中年男性で、今までお酒を飲んでいたらしく、顔が赤くて足元もおぼつかない。



「お前たち、名前は何ていうんだ?」


「……ニーナ、です」

「……ホーリ、です」


「ニーナとホーリか、両方同じ顔だしどっちがどっちでもいいか、名前を知った所でやる事は一緒だ」



 無遠慮に舐め回すような視線を向けられ、ニーナとホーリは身震いしてしまう。その目つきは生理的な嫌悪感を呼び起こし、さっき食べたパンとスープを戻しそうになってしまう。


 それに、名前なんてどうでも良いと言われたのが凄く悲しかった。私たちの事をわかってくれる人は、この世界には居ないんじゃないか、そんな気持ちになって涙が出そうになる。



「ここで何をするかはちゃんとわかってるな?」


「「……はい」」


「奴隷商は15歳になったばかりだと言っていたからな、何も知らないお前たちに、この俺がたっぷりねっとりじっくりと教えてやる」


「「……ひっ」」



 ニーナとホーリは短い悲鳴をあげると、椅子から立ち上がり抱き合って身を固くする。いやらしい目つきで近づいてくる、太ったい肉の塊を見ていると全身に寒気が走って震えてしまう。



「まさかこんな上玉の双子が手に入るとはな、全く同じ柔肌を蹂躙(じゅうりん)する感触が2度も楽しめるんだ、うひっ、うひひひひっ」



 興奮して更に顔を赤くした男が、酒臭い息で不気味な笑い声を上げながら近づく姿は、例えどんなに気丈な女性でも逃げ出したくなるほど醜悪だった。


 ニーナとホーリもジリジリと後ずさるが、男は獲物を弄びながら追い詰めるように、ゆっくりと近づいてきた。



「うひひひっ、精々いい声で()いてくれよ、俺はそんな女を(はずかし)めるのが大好きなんだ」


「「……い、いや」」


「うひっ、もう後がないぞ、どうするんだ?」



 2人は壁際まで追い詰められ、これ以上後ろに下がることは出来ない。男は血走った目で、半開きになった口から(よだれ)を垂らし、両手をワキワキと動かしながら近づいてくる。


 もうだめだと思って目をつぶった瞬間、男は飛びかかるように一気に近づいてきたが、酔っていたせいもあり目測を誤って壁に激突した。



「ぷぎゃっ!」



 顔面を強打して崩れ落ちるように床に倒れた男から、ニーナとホーリは距離を取るが、ピクリとも動かないその姿に少し心配になり声をかけてしまった。



「「……あの、大丈夫でしょうか?」」


「………ぎっ、ぎざまら、奴隷の分際でよくも逃げやがったな!」


「「……!」」



 ゆっくりと立ち上がった男の顔は、打ちどころが悪かったのか鼻血が出ていて、口元を赤く染めて激昂する姿に2人は腰を抜かしてして座り込んでしまう。



「お前たちはっ、俺が買った所有物なんだっ、大人しく俺に抱かれてっ、泣き喚いてればいいだよっ」


「ごめんなさい」

「ゆるしてください」


「貴様らはっ、俺を悦ばせる道具なんだっ」


「あうっ、すみませんでした」

「痛いです、やめて下さい」



 男は近くにあった木製の杖を振り回し、2人を滅多打ちにしている。ニーナとホーリは体を丸めてそれに耐えているが、怒りに我を忘れた男の勢いは止まらない。



「始めからっ、そうやって泣きながらっ、許しを請えばっ、少し痛いだけで済んだんだっ」


「もう逆らいません」

「次はちゃんとやります」


「物の分際でっ、この俺をこんな目にあわせやがってっ、何のためにっ、金を払って買ってやったとっ、思ってるんだっ」



 男の暴行は2人が気を失うまで続き、床には奴隷商で着せてもらった服が所々破れ、(あざ)や出血の跡が痛々しい、ボロ雑巾のようになったニーナとホーリが横たわっていた。



「……しまった、少しやりすぎたな」



 2人が反応しなくなったところで男も正気に戻り、何か汚いものでも見るように大きくため息をついた。



「はぁー、流石にこんなボロボロの女を抱く気にはなれん、とんだ興ざめだ。

 誰か居ないか、すぐ部屋に来い!」


「御用でしょうか、旦那様」



 男の声で、2人を奴隷商から連れてきた執事が部屋に入ってきた。床に倒れる2人を一瞬だけ見たが、そのまま主人に向かって頭を下げ、懐からハンカチを取り出して渡す。



「こいつらは逆らって暴れた挙げ句に、俺に大怪我を負わせた。

 見ろ、こんなに血まみれになってしまったじゃないか」



 執事から受け取ったハンカチで鼻血を拭いて、それを投げ返すと出口の方に向かっていく。



「もうこの女はいらん。

 奴隷商に突き返し、主人に重症を負わせたと言って、犯罪奴隷に落としてこい」


「畏まりました、旦那様」




―――――・―――――・―――――




 こうしてニーナとホーリは心と体に大きな傷を負ってしまい、奴隷商に返された後に意識が戻って怪我の跡が消えても、心を閉ざしたまま喋らなくなってしまった。


次話投稿後、資料集の方を更新します。

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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
異世界転移に巻き込まれた主人公が
魔法回路という技術の改造チートで冒険活動をする物語
回路魔法
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