表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔操言語マイスター  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第3章 イールとロール編
20/85

第19話 見本提出

誤字報告ありがとうございます。

 翌朝、工房に出勤した善司の顔はとても晴れやかだった。あの後、3人はしばらく嬉し涙を流していたが、泣き止んだ後もイールとロールは、善司から離れようとしなかった。


 食事の時も隣にピッタリとくっついているので、少し食べづらかったが、2人の喜びようはそんな些細な事が気にならない程だった。



「おはよう、スノフさん」


「おう、おはよう。

 今日はとてもいい顔をしとるが、昨日のやつはうまく動いたのか?」


「あぁ、全く問題がなかったよ。

 あれを基本として、雑音対策を施したものを、新しい見本として提出してみようと思う」


「そりゃ良かったな。

 何なら今から作って持っていっても構わないぞ」


「いや、もう一度家に持ち帰って試験してみたいんだ」


「そこまで成功してるなら、ここにある魔操器でも出来るだろ?」


「実はな、あの見本で作った魔操板を取り付けた魔操器は、双子にも使えるんだよ」


「……なっ、なんだと!? それは本当か!」


「あぁ、実際に試してもらってるから間違いない」


「それでお前さんは、いちいち持ち帰っておったのか」



 善司がこの工房でテストせずに家に持ち帰っていた理由を聞いたスノフは、とても驚いた顔をしている。実は昨日わざわざ5枚の魔操板を持ち帰ったのも、双子の特性があまりにも違いすぎて、それを吸収しきれなかった時に、もっと大きな補正が必要かもしれないと思ったからだ。



「黙ってて悪かったな」


「そんな事は構わんが、この街で双子と言えばハルの所の娘か」


「スノフさんも知ってるんだな」


「街では有名だからな。

 しかし、何でそんな事をしようと思ったんだ?」


「俺がこの国に来た時に森の中で迷ったんだが、そこで双子の子供に助けられてな。

 それ以来一緒に住んでるんだけど、あの3人は俺が幸せにすると決めた」


「お前さんはハルの噂は知っとるか?」


「あぁ、近くに居る男を不幸にするとか呪われるとかいうやつだろ?

 そんなものは信じてないし、この国に来てからずっと一緒だが、俺は不幸どころか大きな成功を掴んでるよ」


「確かにそうだな。

 お前さんはワシの工房で働いてるのが不思議なくらいの成功を掴んどる」


「それはここで働かせてもらった事が大きいんだ。

 当分辞めるつもりはないが、双子やその母親と暮らしてる人間を雇っていても問題ないか?」


「ワシを舐めるなよ。

 そんな事で解雇など絶対にせんわ」


「それを聞いて安心したよ」



 スノフには、善司が自分から辞めたいと言えば無理に引き止める気はないが、それ以外の理由で解雇するつもりは全く無い。それは善司が、どんな素性だったとしてもだ。



「しかし、双子に魔操作が出来るようになるなど、前代未聞だぞ」


「一緒に暮らしてみて、普通の子供と全く変わらなかったしな。

 それなのに、何故か魔操作が出来ないなんて理不尽すぎるだろ、そんな仕組み(バグ)は俺が修正してやるよ」


「なかなか言うじゃないか。

 とにかく気に入った、今日はその魔操板を作って双子に試験してもらってこい、その後に魔操組合に行くぞ」


「予約の分もまだ終わってないけど良いのか?」


「お前さんのおかげで在庫にはまだ余裕があるから心配するな、それよりとっとと印刷せんか」


「わかった、大急ぎで新しい見本を組み上げるから少し待ってくれ」



 善司は双子にも使えるようになった処理と、ノイズ対策で一番効率の良かった処理を組み合わせ、一つの見本にして印刷をする。それを魔操板に焼いてもらった後に、一旦家へと戻った。



◇◆◇



「ただいま」



 家に帰ると、床の上で話をしていた3人が、突然帰ってきた善司に驚いている。



「あれ? 今日はどうしたの、ゼンジ」

「体の調子が悪くなった?」


「お帰りなさいゼンジさん、何かあったんですか?」


「昨日作った魔操板の話をしたら、工房主がすぐに魔操組合に持っていくと言ってくれて、最終製品にする予定のものを2人に試してほしいんだ」


「それくらいお安いご用だよ」

「早く終わらせた方がいいよね」



 ランタンに魔操板をセットして、試しに使ってみたが動作に問題はない。それを受け取ったイールとロールが、明かりをつけたり消したり何度も繰り返すが、誤動作もしないし無反応になる事もない。



「やっぱり、こうやって動くと嬉しいね」

「うん、何回やっても飽きないよ」


「2人ともありがとう。

 ハルさんも試してみてもらって構いませんか?」


「えぇ、やってみますね」



 ハルも何度か点灯と消灯を繰り返したが、誤作動も無反応も発生しなかった。これなら最終製品として、見本の提出が出来るだろう。



「ありがとうございます、ハルさん。

 問題ないみたいなので、これを持って魔操組合に行ってきます」


「はい、気をつけて行ってらっしゃいませ」


「頑張ってね、ゼンジ」

「新しい見本になるのを楽しみにしてるね」



 3人の声を受けて家を後にして工房に戻り、触ると動くスイッチと、オンとオフの動作をするスイッチの2種類の見本を3枚づつ印刷して、スノフと共に魔操組合へと移動した。



◇◆◇



「邪魔するぞ」


「いらっしゃいませ、スノフさん、ゼンジさん。

 本日のご用件は何でしょうか?」


「新しい見本を持ってきたんだが、支部長はいま大丈夫か?」


「別室におりますので、すぐ呼んでまいります」



 いつも対応してくれている受付嬢が、スノフに支部長に会わせてくれと言われ、席を立って別の部屋へと消えていった。善司の作った新しい見本は今までにない性能で、工房や利用者の間で話題になっているのは、魔操組合に勤める職員は全員が知っている。


 そんな彼がまた新しい見本を作ったというのを聞いて、今度はどんなものを持ってきたのだろうか、後で支部長にこっそり教えてもらおうと、彼女は密かに考えていた。



「お待たせしました、スノフさん、ゼンジ様」


「突然お呼び立てして申し訳ありません」


「それは問題ありませんのでお気になさらず。

 それよりも新しい見本との事ですが」


「魔操器に触れて動作させる魔操板の見本なんですが、特殊な機能を組み込んでいますので、その説明をしたいのですが」


「でしたら応接室でお話しましょう、どうぞこちらへ」



 いま全国で話題になっている見本を作った善司の新作と聞いた支部長は、期待に胸を膨らませながら2人を応接室に案内した。


 部屋の中に入り、ソファーに腰掛けると善司はテーブルの上に6枚の見本を並べる。



「こちらが魔操器に触れるたびに、動作と停止を繰り返す魔操板の見本です。そしてこちらが触れた時だけ動作する魔操板の見本になります」


「数多くの魔操器で使われているものですが、これまでのものに比べて文字数がかなり多いですね、これが特殊な機能なのでしょうか」


「お店に設置されている扉や、照明の切り替えをする時など時々触っても反応しない場合がありますが、そんな不安定な動作を解消できます」


「それは素晴らしい、流石ゼンジ様です」


「それから、これが一番重要なのですが、これを取り付けた魔操器は双子でも魔操作できます」


「えっ……!?」



 善司の言葉を聞いた支部長が、驚いた顔で動きを止めてしまう。突然この街に現れて、画期的な見本を作った眼の前の男性が、優秀な人物であることは間違いがない。しかし、双子は魔操作ができないという、今までの常識を突然崩されて、思考が追いつかなくなっている。



「驚いただろ。

 最近こいつが何枚も新しい魔操板を焼いては動作試験を繰り返して、かなり苦戦しておるとは思っとったが、それがまさか双子でも使える魔操板を作っておったとは、ワシも想像すらしとらなんだわ」


「……ゼンジ様を疑うような事はしたくないのですが、双子でも魔操作が出来るというのは本当なのでしょうか?」


「この街に住んでいる双子の姉妹に協力してもらいましたから、間違いありません」


「確かにこの街には双子がおりますが、魔操作が出来なかったのは一体何が原因だったのですか?」


「魔操器には誤動作防止のために、人が触れたという情報をある範囲だけ判別するようになっています。ところが双子の場合は、お互いに共鳴しあっているのか、その許容範囲を逸脱しているんです。

 そこで、人が触れたという信号そのものを判別できる値に揃える事で、誰でも使える魔操器になりました」


「そんな事がこの見本で可能だとは……」


「ただ、どうしても文字数が増えてしまうので、全ての魔操器にこの処理を施せないのが残念です」


「だが、こいつを使えば魔操器の動作が格段に安定する、それだけでもこの見本には価値があるぞ」


「確かにスノフさんの言われる通りです。

 こちらを当支部で試験した後に、問題がなければ本部へ持ち込ませていただきます」


「よろしくお願いします」



 いまだに信じられない表情をしている支部長に見送られて、善司とスノフは魔操組合を後にする。これが新たな見本として承認されれば、双子が快適に暮らしていける家に引っ越す事や、一般に普及していけば街の施設も利用しやすくなる。



「スノフさん、俺はこの見本が発売されたら、この街に家を借りるか買うかしたいと思ってるんだ、どうしたら良いか教えてもらえないか」


「直接不動産屋に行ってもいいが、やはり魔操組合に相談してみるんだな。

 組合は国や街に大きな影響力を持っとるから、お前さんの希望に叶う物件も見つけやすいはずだ」


「支部長も以前言ってたが、本当に住む場所の斡旋(あっせん)もしてくれるんだな」


「この国に来て、また別の場所に行くと思っとったが、定住を決めたんだな。

 やはり双子と母親のためか?」


「彼女たちとは、この先も一緒に生きていくと決めたからな」


「出会ってそう時間も経っとらんのに、一体何があったのかわからんが、あんな見本を作ってしまうお前さんなら、きっと大丈夫だろ。

 この国に住む連中は、あの3人に関わる事をどうしても躊躇(ちゅうちょ)してしまうからな」


「それから、新しい家を手に入れたら今回の見本で作った魔操板を大量に発注したいんだが、構わないか?」


「家じゅうの魔操器を、双子でも使えるようにする為だな。

 何枚でも無料(ただ)で焼いてやるから、いくらでも印刷して持ってこい」


「いや、流石に無料はスノフさんに申し訳ないよ」


「家を手に入れた祝儀だ、素直に受け取っておけ」


「ありがとう、その言葉に甘えることにする」



 今回の見本は機能が単純なので、3日ほどで審査が終わると聞いている善司は、早くその日が来ることを願いながら、工房へ戻っていった。


筆者もスノフのような人の下で働きたいです(笑)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
異世界転移に巻き込まれた主人公が
魔法回路という技術の改造チートで冒険活動をする物語
回路魔法
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ