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第15話 新しい関係

この話でハル編が終了になります。

 家族になると決めて4人で眠る最初の夜、今日はイールが善司の腕枕で眠る事になり、ロールは余った部分の手を握って眠りについている。


 反対側にはハルが遠慮がちに頭を腕の上に乗せているが、緊張しているのか少し落ち着きがない。



「ハルさん」


「な、何でしょうかゼンジさん」


「昼間は抱きしめていても大丈夫だったのに、どうしてそんなに緊張してるんでしょう?」


「その、家族になったというのを実感して、それはとても嬉しいのですけど、やはり、ふっ、夫婦の営みを想像してしまってっ……」



 ハルは善司の腕の中でテンパってしまい、喋り方もいつもと違う調子になっている。顔は赤く染まり、せっかく薬を飲んでいるのに、熱が上がりすぎて調子を悪くしそうな感じだ。



「まずは病気をしっかり治して、体力を回復させないと何も出来ません。

 それにこの家だと子供たちも一緒ですから、あまりそういった事を意識しすぎるのは……」


「ごっ、ごめんなさい、私こんな気持になったのは初めてで、自分でもどうしたら良いのかわからないんです」


「同じ様な事は俺も想像してしまうので、あまり偉そうに言えませんが」


「その割にゼンジさんは、すごく落ち着いているように見えますよ」


「そんな事は無いですよ、これでも結構緊張してるんです。

 俺はハルさんみたいに可愛らしい人とお付き合いするのは初めてですから」


「かっ、可愛らしいですか……」


「年下の男に言われるのは嫌だったりしますか?」


「いえ、ゼンジさんに言われると、すごく胸が高鳴ります」


「それは良かったです。

 じゃぁ、もっとこっちに近づいて下さい」



 善司は遠慮がちだった体を胸元に引き寄せ、腕を軽く曲げて頭を撫でている。ハルは深呼吸をしながら心を鎮めていたが、やがて胸の高鳴りも収まってきた。


 そうやって落ち着いてくると、自分たちとは違う固くてがっしりとした胸板や、支えてくれる腕のたくましさを、よりいっそう感じる事が出来る。身長差が20cm程あるので、全身を包み込まれるような感覚は、ハルの心をとても穏やかにしてくれた。


 そのまま善司の胸に顔を寄せ、そこにそっと手を当てると、彼の鼓動が音と振動でハルに伝わってくる。それはずっと忘れていた安らぎを思い起こさせ、涙が出そうになった。



「落ち着いてきましたか?」


「子供が産まれてから生きていくのに精一杯で、その時どこかに置き去りにしてしまった安らぎを、ゼンジさんの中に見つけ出せた気がします」


「そうですか……

 ハルさんはそうやってずっと頑張ってきたんですから、もう休んでもいいと思いますよ」


「でも、薬のお金を工面してもらった事でさえ大きすぎるのに、何もかもゼンジさんに依存してしまうのは、とても心苦しいのですが」


「俺としては、こうして頼りにしてもらえたり、安らいでもらえるだけでも嬉しいです。

 それに、いずれ引っ越しを考えていますので、その家を守っていく役目をハルさんにはお願いしたいです」


「引っ越し……ですか。

 でも普通の家だと、魔操作の出来ないイールとロールが暮らしていけなくなります」



 普通の家だと、様々な場面で魔操作が必要になる。水を出したり調理をしたり、部屋の照明をつけるのにも必要だし、中にはドアの開閉に魔操作を使う家もある。そんな家に引っ越してしまうと、双子には何も使えなくて、生活が出来なくなってしまう。


 この納屋のような家で、水を得るのも料理をするのも全て自力でやっているから、2人は生活をしていけているのだ。



「その点に関して解決できるかは、まだお約束できないですが、これからやってみたい事が決まりましたから、その中で何か手がかりになるものが見つかるのではないかと期待してます。

 イールとロールにも手伝ってもらう事が沢山ありますので、それがうまくいけば引っ越しを考えてみてもらえませんか?」


「もしそんな奇跡のような事が起こるなら、全てゼンジさんにお任せします。私たち母娘はもうあなたのものですから、思い通りにやっていただいて構いません」



 ハルは善司の肩に顔を埋めて、泣きそうになるのを必死で我慢した。この人は自分だけでなく、娘まで救おうとしてくれている。双子は魔操作ができない事で社会の中に入っていけず、人々から誹謗中傷を受け続けてきた。


 もし双子でも魔操作が出来るようになれば、それは紛れもなく奇跡だし、この世界の常識そのものが変わってしまう。善司のやろうとしている事を理解は出来ないが、そんな時代が訪れたなら、この人に自分の全てを捧げよう。ハルの中に最後まで残っていた男性に対するトラウマが、善司に対しては綺麗に消えていた。



○○○



 善司にはハルの考えている事はわからないが、肩に顔を押し付けて何かを(こら)えているんだろう事は感じられる。この人が今まで抱えてきた色々なものを、今度は自分も一緒に背負っていこう、そう思いながら頭を撫で続ける。


 そんな優しいなでなでは、お互いが眠りに就くまで続けられた。




―――――・―――――・―――――




 辺りが明るくなり善司が目を覚ますと、イールはいつもの様に抱きつきながら眠り、その横で寝ていたロールも、空いた部分の腕を枕にして眠っている。


 反対側には、昨夜は肩に顔を埋めて何かに耐えるようにしていたハルが、イールと同じ様に抱きついて眠っていた。その寝顔はとても穏やかな表情をしていて、薬も効いてきてるのだろう、今までより顔色も良くなっている。


 そして、子供たちと違い明確に感じられる“まろやかな感触”は、ハルが大人の女性だというのを、善司に強く意識させた。


 ハルの頭を抱えるように腕を回し、その感触を楽しんでいると、閉じていた(まぶた)がゆっくりと持ち上がる。少しだけ見つめ合った後、ハルは善司に顔を近づけていき、触れるだけの軽いキスをする。



「おはようございます、ゼンジさん」


「おはようございます、ハルさん。

 体調はどうですか?」


「体がすごく軽くなってます、今まで感じていた何か重い物が乗っている感覚が、すっかり無くなりました」


「一晩寝て薬が効いてきたんですね」


「それだけでなく、気持ちも軽くなっていますから、きっとゼンジさんのおかげですね」



 そうやって曇りのない微笑みを浮かべるハルを見ていると、新しい魔操紙の見本にも早めに目処を付けて、目の前の母娘に安らげる生活をさせてあげたい、善司に強くそれを決意をさせる。



「熱はどうでしょうか?

 俺の(ひたい)にハルさんの額をくっつけてもらっても良いですか」


「はい、これで構いませんか?」



 少し恥ずかしい要求にも、ハルは素直に答えてくれる。善司はその態度の変化に気持ちが高揚したが、熱だけはしっかりを測らせてもらう。



「熱もほとんど下がってると思いますよ」


「薬を1回飲んだだけで、かなり回復するんですね」


「病気は治りかけが一番気をつけないといけない時期ですから、油断せずにしっかり治療しましょう」


「娘たちも私の事を見張っていると言っていましたし、大人しく言いつけを守ります」



 そうやって甘やかなひと時を過ごしていると、イールとロールから起きてくる気配がした。ハルは名残惜しそうに善司から離れ、座った状態で2人に声をかけた。



「2人ともおはよう」


「……おはよー、お母さん」

「ゼンジもおはよう」


「よく眠れたか?」


「うん、今日もぐっすり眠れたよ」

「ちょっと寂しかったけど私もよく眠れた」

「それよりお母さんはどう?」

「ちゃんと治ってる?」



 2人はハルの声を聞くと、起き上がって顔を見つめながら、心配そうに尋ねている。



「さっきゼンジさんに熱を測ってもらったけど、ちゃんと下がってるし、体も軽くなったわよ」


「ほんと! 良かったー」

「薬が効いたんだね、お母さん」


「あなた達のおかげよ、ありがとう」


「ゼンジが居てくれたからだよ」

「私たちだけじゃ薬は買えなかったもん」


「そんな事ないぞ2人とも。

 病気で動けなくなったハルさんを、イールとロールが一生懸命支えてくれたから、こうやって薬が間に合って元気になったんだ」


「そうよ、それにゼンジさんを連れて来てくれたのも、あなた達だものね」


「頑張ってきてよかったね、ローちゃん」

「森に行かなかったらゼンジにも会えなかったし、ずっとイーちゃんと狩りをしてきたおかげだね」



 善司に頭を撫でられて、イールとロールも嬉しそうに笑っている。こうして何も心配せずに、心から笑い合えるようになったのは善司のおかげだ。その出会いをもたらしてくれた娘たちに、ハルは心から感謝をした。


今作でもやっぱり出ます、まろやかさん(笑)


次回からイール&ロール編が始まりますので、ご期待下さい。

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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
異世界転移に巻き込まれた主人公が
魔法回路という技術の改造チートで冒険活動をする物語
回路魔法
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