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パープルタウンの人々  作者: むらさき毒きのこ原作 秋の桜子著
7/10

父と子

商店街の『おでんやコスモス』その地下には、異世界をつなぐ、蒸気機関車を模した乗り物の『駅』があった。


そしてその乗り物に身を委ねる一人の精悍な男。キリリ閉じた短髪、涼しげな目鼻だち、すらりとした長身の彼の名前は『アイアン』


今彼は家に久しぶりに帰るべく、タタンタタンと効果音が流れる中で、久しぶりに合う、息子の事を考えていた。

『おいひーでふ、これ、モチモチ、とおめいのぉ、そうそうアイアンひゃん、戻ってるよね』


 一応人間の姿に近づけているナニかが、紫色のこんにゃくを頬張っている、コスモスのカウンター。


『駅前』なので、異形なお客さん達も訪れる。そして今、彼?が口にはこんでいるのは、猫氏から仕入れた『スーちゃん』の余分な『肉?』……スーちゃんのお肉……スーちゃん。


「ありがとうございます。これは別口のお客さん専用食材なのぉ、うん、帰って来てる、お仕事あるからね!」


 笑顔で答える、怪しきおでん屋コスモス経営、秋の桜子。スーちゃんを、別の鍋で煮込んでいることを、切に願う。


 ×××××


 ――「ほら!笑ってー!きのこくーん、悪かった!だから笑ってくれー!」


 フォトショップ、ふきのとうのスタジオで、ポスターの撮影をしている、きのこ少年とメモリーB、少年は顔をしかめていい放つ。


「大人もメモリーちゃんも、嫌いだから笑わない!」


 共に、ホワイト甘ロリ衣装に身を包んでいる、愛らしい二人なのだが、撮影そうそうにメモリーBの一言で、きのこ少年は痛く心を傷つけられ、仏頂面を張り付けている。


「マシュゥ、私悪くない、マッシュルームに行きたいって言っただけ」


「きのこだよ!メモリーちゃん、何で僕のお部屋が『マッシュルーム』なの!」


「マシュゥのお部屋だから、マッシュルーム」


「きのこ!僕の名前はきのこなの!みんなも笑うから嫌い!」


 撮影に参加している、海村氏、かませ氏、カメラマンのふきのとう氏は二人の掛け合いを見ると、笑いの発作に見舞われている、


 や、止めてくれ、メモリーちゃん、と目に涙を浮かべ声を抑えている真っ最中。


 そして、必死で隠す大人達を目にすると、きのこ少年は、ますます機嫌が悪くなる。


「ねえ、明日は『古城杯チャリレース』があるからね、撮影出来ないし、それが終わると、撮影旅行なんだよ、だから笑ってくれー!」


 ふきのとう氏が笑いの涙目で、少年に声をかけるが、ますます機嫌を損ねる。その様子を見かねたかませ氏は、路線変更しようかとアイデアを出してきた。


「獲物持たせて、きのこ君の衣装チェンジして『悪カッコいい』のにしよう!時間ないし」


 ちょっと試したから、海ちゃん何か描いてよとかませ氏、それを受けて海村氏が、サラサラとイラストを描いている間に、


 かませ氏は、きのこ少年のホワイトの衣装を漆黒の物へと作り替える。


「試すって、何?かませさん」


 ふきのとう氏が問いかける。まぁ見てて!今年こそは!楽チンしたいから頑張った!とかませ氏は、海村氏からイラストを受けとると、それをじっと眺めイメージを固めると


「出でよ!」


 強く一言放つ、かませ氏。すると、イラストの『深紅のバール』と『バズーカーみたいなチャッカマン』が具現化した。


「嘘ぉ!かませさん、レベル上がったんだ!」


「そうそう!今迄は自分の描いた作品だけだったけど、毎年!毎年の地獄のチャリレース後始末、もう大変だから、具現化のレベル上げした」


 だから今年は『具現化』しかしない!映像、イラストは、海ちゃん、ふきちゃんに任した!とバールをメモリーB、チャッカマンをきのこ少年手渡しつつ、二人に話した。


「え……あの過酷な任務につけと……」


 海村氏が、恐る恐る聞いた時に、スタジオのドアをノックするものがいた。


「はい?開いてるから勝手にどうぞ、でも、スクリーンあるからね、そんなに期待しないで」


 やんわりと牽制をはるふきのとう氏、大丈夫、今のでイメージでも、行けそうだから、海ちゃんに頑張ってもらう。と上機嫌で話すかませ氏。


 あの過酷なの、と海村氏の言葉はむなしくスルーされている。ガックリとうなだれた時、重いドアがゆっくり開かれた。そして表れたのは、


「お久しぶりです、皆さん。倅がお世話になっております、きのこ元気だったか?」


「お!おとうさん、いつ帰って来たのぉー!」


 寡黙な雰囲気を持つきのこ少年の父親『アイアン』が、少しぎこちない笑顔と共に室内へと入って来る。すぐさま飛び付くきのこ少年。


「おとうさん、おとうさん、何で僕きのこなのおー!」


 メモリーちゃんがね、メモリーちゃんがぁと事の顛末を涙ながらに話すきのこ少年。


 そうか。でも、男は泣いたらダメだろう、と優しく諭すアイアン、そしてメモリーBに目をやると、可愛いお嬢ちゃんじゃあないか、と息子に言う。


 メモリーちゃん、僕の名前をヘンテコなので呼ぶー、何できのこなのと聞く息子に


「キノコってのは、花みたいに種をつけなくてもな『胞子』てぇ、目に見えない程に小さいモノを大地に飛ばすんだよ」


 うん、知ってるときのこ少年。そんな息子と視線をあわすと、彼の頭に手を置き話を続ける。


「お日様が届かない場所でもな、しっかりと根を出し、やがて、でけぇキノコになる、お父さんはそんな強い、キノコみてぇな男になってもらいたくて、きのこって名前をつけたんだ」


「そうなの?おとうさん、僕の名前はおとうさんがつけたの?」


 そうだ、可愛い息子だからな。とアイアン。きのこ少年はその想いを受けとると、おとうさん、ありがとうー!と抱きつく。


 室内になんとも言えない、じんわりとした空気が漂う中で、アイアンはメモリーBに話す。


「お嬢ちゃんも理由があるとは思うが、どうだろう、息子の呼び名だが、ここは勝負で決めちゃくれないか?」


「マシュゥパパ 勝負って、何やねん」


 あれだよ、あれとスタジオの壁に張ってある『古城ロック杯 商店街チャリレース』のポスターを指差した。


「どうだろう、きのこ、お前も男なら勝負で、決めたらどうだ?お前が勝ったら、きのこ、負けたら、お嬢ちゃんの呼び名だ」


 うん、やる!ときのこ少年、がんばれと声をかける『伝説のギャンブラー アイアン』


 彼は毎年、この時期に帰って来ている。胴締めとして、この時のみの『紫賭場』を開くため、戻って来ているのだ。


 なので、もちろんメモリBも煽っておくことも忘れない。笑顔でお嬢ちゃんも、頑張って自分の想いを通せと声をかける。


「ふん!負けへん!マシュゥ!私が勝ったら、マシュゥやね!」


「きのこ!きのこ!僕が勝ったら!きのこって呼んで!」



 ×××××



 ……「ハーイ、カッコいいポーズでねー!」


 その後、撮影は順調に行ったのは言うまでもない。新年のめでたいポスターの筈が、どうやらバトル系の仕上がりに、なりそうだった。


「明日は、楽しみです。皆さん」


 アイアンが、静かに言葉を言う。


『伝説のギャンブラー アイアン』張り合う我が子達の姿を目を細めつつ、眺めていた。





































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