名を変わりし二人のストーリー後編
メールが一件入る『古城ロックサイクリング』店の経営者『古城ロック』氏はそれを開いた。
『今夜 商店街の清掃作業のため、巡回を頼みます 鳴海』
それは、この商店街を取りまとめている、商工会会長である『割烹居酒屋 鳴海』の経営者『鳴海』氏からの連絡だった。
清掃作業ねぇ、何があったのかな?
古城ロック氏はそれを読むと、何処か嬉々とした様子で、少々早いが店を閉めた。
そしてある特殊な材質で作られた『メモリーカード』を取り出して来ると、上着のポケットに無造作にいれ、愛車にヒラリとまたがり、風を切り店を後にする……
×××××
「おーとなは!はっきり言わん」
「はっきりって、何のこと?メモリーちゃん」
「あっははあ?何の事かなぁ?さぁ!それよりもクッキー食べたら?リーリエが作ったんだよ」
マスターの猫氏が、二人に菓子皿に盛った焼き菓子を勧める。彼はメモリーBを監視するために、二人のそばにいる。
『イベール ミネット』の店内で不服を述べつつ、じゅるじゅると果物のスムージーを飲んでいるメモリーB、
きのこ少年も、同じくそれを飲みながらやはり気になるのか、勧められたクッキーをつまむと彼女に問いかける。
何でもないよおよぉ!きのこ君、メモリーちゃんもお菓子食べて!食べて!と彼女の口をふさごうと、頑張る猫氏。
言えるわけ無いだろう、メモリーちゃん……猫さん頼む、きのこ君をまもってくれと、その場に居合わす大人達は、念を送っている。
――「大人の話があるから、ちょっとこれ飲んでてね!」
とリーリエに、大人の常套句を使われた事に、彼女は不服らしい。店の奥でぶちぶち文句を言っている。
まぁまぁ、メモリーちゃん、こっちのは今度お店に出す新製品だから、味見してよと頑張る夫を眺めつつ『大人の話』を切り出すリーリエ
「それで、ハニーさん、探してるのは私?それとも彼?」
「いや、二人共の感じがしたな」
そう、見つかったか、とため息をつくリーリエ、偶然出会い道々話を聞いていた海村氏は、どうするかと聞いてきた。
「どうもこうも……知っての通り、私立場も地位も棄てて、彼と逃げたのよね、今思えばきちんと『下茂塚組』を壊滅させとけば良かったのだけど、皆に迷惑はかけられない、今夜中に出ていくわ……」
この街好きだけど、迷惑はかけられない。と寂し気に微笑む。
「どうして、出ていく事無いだろう?悪い事をしたわけでも無いのに」
ハニー氏が問いかける。
「ここではね、以前は色々手を染めた事もあるのよ。まぁ家業を継いだのが、運のつきなのだけど」
そう、『リーリエ』本名『下茂塚ユリ』氏は、別の街の夜の世界を牛耳る、その道の女総代を務めていたお方。グループトップのお人だったのだ。
あー、時間が無かったから逃げたのがミスだったと、落ち込む様子のリーリエ
……ん?どうしたんだ?何があったのか?
チラと聞こえてきた話の内容と、愛しの妻の儚げな姿を目にした猫氏は、相手をしていた二人から目を離した。
その隙をつき、メモリーBは面白くないので、行動に移す。ぴょこんときのこ少年の側へと可愛く寄ると、彼の耳元へささやく。
内容は、もちろん彼女の知る範囲の『Hな大人の世界』そして聞くきのこ少年は『未知なる世界』なのは言うまでもない。
ヒソヒソと小悪魔が天使を陥れるように、話を進めて行くメモリーB。そしてそれに気づかぬ大人達は、切なる問題の話を進めていた。
「出るって、行き先は?それに上手く逃げても、追われる限りは、落ち着かないのでは?」
海村氏がそう言うと、ではどうするの?奴等は説得は通用しない、力が全てだから望むものは奪いとる!そういう『世界』なのよ、と答えるリーリエ。
「ならば『清掃』すればいい、会長には連絡したから、もう動いてくれてると思う」
落ち込むリーリエに、この店の専属歌手である、ハニー氏がにこやかに声をかけた。それに、職場が無くなるのは困るからね、と言葉を足す。
「清掃って、ご迷惑かけられない、ハニーさん、職場ならこのお店を、退職金がわりに貰ってくれたら……」
「おおおー!そんなことするのぉー!」
リーリエが全言わぬ内に、覆い被さる様にきのこ少年の声がする。
しまった、忘れてた、と満足そうな様子の小悪魔に目を向ける猫氏。
こうしてきのこ君は、少しだけ、大人の世界を知ったのでした。
×××××
――そしてその頃、宵闇の商店街を今宵の『清掃』作業の為に、古城ロック氏は颯爽と商店街を愛車で、情報収集の為に風を切りながら駆け抜けていた。
ふん、紛れてるね『余所者』清掃対象者ね。見る現実を胸にしまった、特殊なそれに記憶させて行く……
「へー!面白くなりそう!ではフォトショップへと行きますか!」
楽しいパーティーがはじまる予感、不敵な笑顔で、そう言葉を風に乗せると、彼は目的地へと向かう。
『神谷ネコ丸氏』そして彼らのかつての主を探す、うろんな男達の姿は、迫る夜に事を起こすのか、密かに数が増えつつあった。
今宵、何かが始まるパープルタウン、その時は近い。