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ゲッカビジン  作者: 織坂一
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8.蠢くざわめき 中編2

しかし彼女はその言葉全てシカトしてはこう呟いた。

「翔さんこそ明日大丈夫なんですか?」

「ああ、私は在宅だからそこまで気にしなくても平気。それに帰りが遅くなると同居人さんも心配するんじゃ……」

「なんも判ってない」

突然愛花はまるで拗ねた子供の様に頬を膨らませてはそうぽつりと呟いた。

「現実が嫌だからこうしてるの!もう自分を隠すのは嫌なの!」

「否、気持ちは判るよ?でも」

「もういいです!翔さん既婚者なんでしょ?それでも奥さんが靡かないのはきっとその鈍感さの所為だからね!」


捨て台詞の様にそう呟くと愛花は勢いよく席を立って杏癒に背を向けては人に溢れかえった店内から消えていった。

あの短い時間の中で杏癒は愛花の同居人との話や親との話を聞くに聞いていた側だったが、こう尋ねられた事が1つだけあった。

「そういえば翔さんは恋人とかっているんですかぁ?」

すっかり慣れた猫撫で声に対し、コーラを口にしてストローから口を離せば苦笑してはこう答えた。

「一応いるし、既婚者。ネットの話だけど」

彼女もこの言葉を聞いてから何を思ったのか判らないが、恐らくあまり宜しい方には考えてはいなかったのか「そ、そうなんだぁ……」と苦し紛れに答えるだけだった。


しかしやはり最後の言葉が心に刺さる。

きっと彼女は一晩だけの相手だとしても誰でもいいから愛して欲しかったのだろう。

同居人とは仲は良さそうに聞こえたが、付き合っている様には思えなかった。

だから結局は愛花も杏癒も、否、この街に来る大半の人間が皆そう。

イベントが終われば、この夜が明ければ皆現実へと帰らなければならない。

それ程苦しい事は無いのだと密かに心内で訴えている。

小さな背中を見送った後にもう1度言われた言葉を思い返してみる。


奥さんの気が靡かない?否、彼女は自分を愛してくれているし、それは電話でもメッセージのやり取りでもそうだと判っている。

鈍感?ああ、確かに自分は鈍感だ。

だがそれでも恋人の気持ちを理解しようと常々彼女を考え、どうしたら喜んでくれるか?どうしたら笑顔で過ごせるかをずっと考えているし、自分が鈍感なのは自覚がある為、自己申請ならちゃんとしてある。そこもまた彼女は理解している筈だ。

でもそれが嘘なら?

「ちっ」

余計な事を考えてしまった所為か、思わず舌打ちしてしまう始末。

計6785円も消費しておきながらこんな目に遭うならば来なければ良かったと思っても後の祭り。

仕方無いと思って、大通りに抜けてコンビニに入るとある程度3万程金を降ろすと、向かったのは適当に空いていたバーだった。女性ならば1時間1900円でシャンパンやドンペリなどのドリンク代はまた別料金。追加料金は900円。

この新宿二丁目にしては中々財布に優しい店ではあるが、既にここも常連客の戯れ場になっているのか、1人ここで呑んでいる杏癒に目を向ける者は誰として1人もいない。

それもそうだ、こんな険しい顔をしてただ酒を煽りに来ただけの客の相手をするなど惰性に等しい。それに杏癒もストレスで呑み過ぎたのか最早誰と話せる状態ではなかった。


そんな時だった。

どうも、織坂一です。


前回のを読んで思った方もいると思いますが、確かにあの愛花という子は完全にこの先に繋ぐ為の存在で、そして再び杏癒に「今の恋愛を続けるべきか?」という葛藤を再び抱かせる為だけに十分と働いて貰いました。


そしてこの先ですが、この先からいよいよこの「ゲッカビジン」の切り口が始まります。

「今までのはなんだったんだよ!」と思う方もいると思いますが、中々の中編小説なので、そこだけはどうかご勘弁を……。

それでは次回もお楽しみに!

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