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ゲッカビジン  作者: 織坂一
74/75

74.手首に巻かれたそれの意味 後編


 そして2人の手首に巻きつけられた白い輪っかが一体なんなのかも。


 だがもう判らなくていい

自分は愛してしまったのだから。もっと愛する人がいながらも手を繋ぐこの男の事を。

 

 殺されてもいいと思った。

正に狂人の考えかもしれないが、自分は前に愛しい人との世界を創る為に銀色の刃をこの男の大事な家族に振りかざした。

 そこには愛があったから。

 誰にも彼女を触れさせたくない程に、狂う程に愛していたから。

 だから愛の元に罪を犯した。


 一体自分が今どこに行こうとしているのか判らない。だけれどもそれでいい。

もう1人、盲目になる程の存在を得たから。

 これは卑劣で勝手な裏切りだ

だが、それは彼も同じく犯している。

 許しあうしかないのだ

互いを愛せない者同士、互いを間違って愛してしまった者同士、こんな道しか選べなかった馬鹿な者同士。


「本当に大丈夫ですか?」

「え、ええ。」

 もう周りは真っ暗で、灯りはか細い月明かりしかない。けれどもこの深い青は暗闇の中で異常な程の幻想を魅せた。

 まるで見ているこちらまで暗闇に誘う様に、死神の様にこちらへおいでと手招きしている様で、杏癒には逆にそれが幻想的に見えた。

「でも、小動岬ってこんなに綺麗だったんですね。なんだかあの太宰治がここで心中したのか判る気がします。」

 ふとそう呟くと、横にいる佐伯は小さく笑う。

「そうですかね?逸話を見る限り、単にここが都合のいい場所だっただけかもしれませんよ?」

「判りませんけど、それもありそう。」

「まぁ、それはともかく僕の話を聞いてくれませんか?」

「なんですか?」


 どこか真剣に呟く佐伯の顔を見て杏癒は言う。すると佐伯はぽつり、ぽつりと物語を語る語り手の様に漆黒のか細い月だけが浮かぶ空を見上げては語りだした。

「僕が今まで生きてきた中で1番最低で下手くそな物語です。産まれてから殺ししか知らない屍蝋の様な男が、同じ殺し屋に頼まれて浚った街娘に恋をして、結局その末に街娘を浚う前に殺した街娘の夫の掴んだネタの所為で逆に自分が殺されそうになった時、街娘が男を庇って1人生き残った時は彼はこう祈ったそうです。」

「……その男はなんて?」

 首を傾げて尋ねると、相変わらず虚空を見つめたまま佐伯は語る。

「彼女を永遠に愛する代わりに、殺してしまった彼女の――今まで手にかけた人間の命を寄越せ、と。……こんな風に。」


 瞬間、激痛が杏癒を襲う。

どうも、織坂一です


昨日体調不良と言う事もあり、すごい適当に済ませて申し訳ありませんでした。

確かに昨日も書きましたが、最後になればなるに連れて語れなくなってきますね……。


ですがこう仕上げる為のお膳立てですよ、これらは!(特にデートの回は)

下げに下げて、最後で「え!?」となる展開でしたね、今回は。

タイトルにある手首に巻かれたそれの意味はお互いの罪の意識です。


佐伯は美穂を裏切った罪、杏癒は唯を裏切るだけでなく美月も殺しかけたので、それぞれの罪の意識ですね。

けれども二股も出来ないし、かと言って互いに別れを告げる訳にもいかず、しかして両者共自分の愛する人を嫌った訳でもないですし、寧ろまだ愛してますよ。

しかし!しかしですよ、互いが理解者からその恋の行方のイレギュラーになった事で、もうどうにでもなれと。

なので手首に巻かれたそれの意味とは所詮は無意味です。


さて、サスペンス交じりになりましたね…この作品一応恋愛物語なんですけど……。

まぁ何あれともかく次回をお楽しみに!

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