70.手を取ろうとしなかったのは
嗚呼、そうだとも先程自分らが話している事は自殺志願者のそれで幸せも愛も暖かさもどこにもないと言うのに、何故かあの時鬼女の様に見えた笑みが愛しくて優しくて眩しい。
そして鬼女の仮面を被った女は言う。
「私は彼女の事を愛しているのにどうしてこうも反比例するのか……。今、きっと寂しいと苦しいと感じた時に傍に居て欲しいのは唯じゃないのは、もう私も判っているから。」
「ッ、」
思わずまた涙が溢れ出す。人が周りにいると言うのに大嫌いで愛しい人を抱きしめてしまう。
いつか思った通りだった
これを戯曲に書いたら笑うしかないと、滑稽であると。正にそうだ。
溺れた先は泥沼
暖かい世界を捨てて
なのに残酷な程、この共犯者の体温は愛したあの人よりもっと温かかった。
そう互いに思いながら
これ以上口にしたら、それこそ無粋な話だ。
だからそろそろもうこの滑稽な物語を終わりにしよう。
2人して腕の中で言葉もないのに、心内の中でそう誓い合った。
どうも、織坂一です。
ここで第8章は終了となりまして、今回は非常に短かったです。(まさかこうなるとは……)
ですが、このままぐだぐだ続けていくよりも、次に向かった方がテンポがいいので、前回と併せて読んで頂けると嬉しいです。
そして次からは最終章ですが、一体この2人はどうなるのか。
恐らく予想のつかない壮絶な終わりとなりますが、次回をお楽しみに。




