69.もしもあなたを
「でも僕はそれを許しませんよ。仮令僕があの時貴女に一目惚れしていたとしても、もう僕は婚約者である美穂さんを愛しているのだから。」
「ああ……。」
思わず馬鹿だなぁ、と心内で乾いた声で呟く。
何をしてるんだ、そうだ。自分もいるではないか。愛してやまない存在が。
「本当に呆れますね、僕達と言う存在は……。なんでこんな風にケリも付けられずに人を愛してしまったのか……僕の人生の最大の過ちです。柴田さんだってそうでしょう?」
思わず声が出なくて、コクリと俯きながらも頷いた。本当に馬鹿らしい。何故今まで否定していたのか。
唯を傷つけるのが怖いから?それとも唯を傷つけたら自分はどう謝ればいいのか判らないから?
今更考えても、どれも取ってつけた言い訳の様で正直笑いさえも出てこない。それはきっと佐伯も同じだ。
「柴田さんももう慣れたでしょうから、僕が過ぎた事を言うのを許して下さい。もっと早く貴女に会えたのならば、また別の幸せがあったのかな、と。」
「でも私も佐伯さんも今の幸せを手放す事は出来ない……でしょう?」
「ええ」
哀れな恋をした哀れな2人
いっそ二股でもかけてしまえ、と言う人もいるかもしれないが、それが出来ないと言うのは痛いぐらいに2人は今痛感しているから。
「……今日言いたかったのはそれだけです。わざわざ済みません、姑息な真似をして。」
「今更何を言ってるんですか。もう私も佐伯さんも互いがどんな人間か手の内が知ってる癖に。」
「そうですね」
こうしか答えられない半端な2人はさぞ悔しかろう。けれど今更自分を呪っても、この現状を嘆いても今はもう変えられない。
「……もういっそ、貴女をこの手で殺せたら。」
ぽつり、と佐伯は呟いた。だがその言葉も秋風によってかき消えてしまう一瞬の泡沫。
「いいですよ」
同じく消え入りそうな声で呟いた。
何せ昨晩思ったじゃないか。これが終わったらもう死んでもいいと。
そもそも昨日今日云々ではなく、既に杏癒が美月を手にかけてそれが佐伯に暴かれた時、既に杏癒は佐伯の手によって殺されるのを覚悟していたのだから。
「だから、構わないです。私はそんな覚悟なんてしてました……仮令唯を残しても、私は永遠にアイツを愛している事に変わりはないのだから。勿論、貴方も。佐伯さん。」
「え?」
思わず拍子抜けした声で、杏癒へと視線を移せば、杏癒はまだ笑っている。
茶髪の悪魔と比喩された筈のその笑顔がどうしてか今の佐伯には眩しく見えた。とうとう精神をおかしくしたのだろう、佐伯はそう思った。
どうも、織坂一です。
一難去ってまた一難の今回でしたが、如何だったでしょうか?
あのー…私の作品を初期から知っている方から(もうほとんどいませんが)、織坂節というものが…無論PNは違うので、言いまわしが違いますが。
この下げて下げて更に下げるというのが私の作品の特徴で、読者のみなさんに「もうお腹いっぱいだから!」と言わせるこのスタンスは今も尚引き継いでいます。
それよりももうこれ……後書きで何を言えと……。
とりあえず言っておきます。そろそろこのゲッカビジンは終わりを迎えます。ですがタダじゃ終わらせません!変化球を投げるのはここからです!
と言う訳で次回もお楽しみにー……




