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ゲッカビジン  作者: 織坂一
68/75

68.オブビアス


 言ってはならないと思ったが思わず口に出していた。すると佐伯は罰が悪そうに笑う。

「済みません、試した様な真似をして。ですが本当は昨日でケリを付けるつもりが調子を崩されたので少しだけ利用させて貰いました。」

「……失礼を承知で言わせて貰いますけど、幸さんの言った通り、優しさの欠片もありませんね。佐伯さんって。」

「自覚はしています。ですから僕もちゃんと白状します。」


 悪びれた様子など見せずに笑っていた態度を一変させ、俯いてはぽつりぽつりと語りだす。

「貴女も馬鹿ではないでしょうから、何故自分が罪の意識に苛まれたのかは判る筈です。ですが、そしたら何故罪を犯してもいない僕がああも苦しんだのか……絶縁を宣言しておきながら、こうも今顔を合わせているのか、白状しましょう。……僕は婚約者がいながら、実は背徳的な事をしてしまった。不思議ですよ。初めて会ったあの店で僕と同じ様に人生に嫌気が射した様に酒を呑む貴女に最初から何か感じたのが完全に敗因でした。」


 言っている意味が判らなかった

背徳的?敗因?未だよく理解出来ない状況と話に耳を傾けながら聞くも1つだけ気になった事がある。


「佐伯さんは――」

 あの時――初めて会ったあの日、何を考えていたのか。それが判らないと話が噛み合わない。だから、と切り出した時には全てが遅かった。

「僕が何故、貴女に声を掛けたのか……ですよね?実はあの日、色々逃げたかっただけなんです。仕事の事はともかく、僕の生きる世界は小さいですから、その世界や婚約者の事に関しても嫌気が射してしまって……だから叔母が以前まで働いていたあのバーで1人自棄酒をしてたんです。そしたら丁度前に座っていた誰かさんがあまりにも僕と似ていて気になったんですよ、誰かさん。」

「私が……?」


 聞かずともそれは明らかだったのに思わず聞き返してしまった。そうだ、自分もあの時、愛花に散々に言われた挙句に収穫もないから虚しく自棄酒をしていた誰かさんなのだ。

そしてその隣に座っていた誰かさんは語る。


「一目見た時から変な人だと思っていたら、夕方の事を思い出しまして……どこか寂しそうに煙を燻らせる貴女が気になっていました。」

「そう、だったんですか……。」

 駄目だ、と本能が告げる。

 さっき佐伯が言った通り杏癒もそこまで馬鹿ではない。

 きっとこのまま話を聞き続けていたら柴田杏癒は崩壊する。


 マタ・ハリごっこどころではない。これは本当に背徳的な話だ。だって、間違いがないならば、佐伯依人は柴田杏癒に恋をした事になる。

こんな事があっていいものなのだろうか?そう、考えている最中だった。



どうも、織坂一です。


とうとう佐伯の腹の内側を出せてある意味スッキリしています。

正直ここまで至るのに失礼ではありますが、美穂も踏み台であったんですよ。

狂おしい程の葛藤を心に抱えてこうして落していくスタンスであったので、佐伯の性格を優柔不断、女々しいという設定にして、結局自分が与えた罪か幸せかを天秤にかけたかったんです。一応彼も主人公ですからね。


ではその回答に対し、杏癒はどう返答するのか?それも加えて「オブビアス(明白である)」というタイトルになった訳で。


英語圏でもドイツ語でもオブビアスは「明白な」や「疑いの余地はない」という意味です。


さて、こんな泥沼の中杏癒がどう返事を切りだすか、次回をお楽しみに。

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