63.哀しさは枯れ果てる事もなく
「だって忘れきれなかった……私は唯……否、婚約者と2人きりの世界でいられるならば何を犠牲にしてもよかった。けれども実際はそんなのはただの机上の空論に過ぎなかったんですよ。私が犯した罪の重さ……そして何より、それを想う度、佐伯さんの存在が自分の中で大きくなっていって……だから先日幸さんの所に全部話してきました。そしたら、また佐伯さんを連れて一緒に来て欲しいって。」
「……冗談じゃないですよ。」
「え?」
驚いて俯いた顔を佐伯の方へ向けると彼は涙を零していた。
余程思う事があるのか、中々歯止めが効かないのか指先で涙を拭う。
「冗談じゃないですよ、洒落にもならない。何故貴女まで僕と同じ想いを抱えているんです?僕だって、本当はあれで良かった筈なのに……もう幸せは手に入れて、幸せにしなくちゃいけない存在もいると言うのに何故……何故、ここまで柴田さんが僕の心に入ってくるのか……っ。」
「佐伯さん……。」
失礼であるがあの佐伯が泣いている。
現実主義で、不器用で、自分の感情を上手く現す事の出来ない男が今こうも涙してまで自分の心境を語っている。
更に杏癒の心に掛る負荷は大きくなるも、まだ話は終わっていない。だから杏癒はこうした。
何時しか彼が涙を拭ってくれた様に、バッグから白いハンカチを取り出しては佐伯へと差し出しては言う。
「……ここに来ると言う事は全部覚悟してますから。泣くなりなんなりして構いません。」
すると、一瞬だけ目を見開いてはすぐに表情を崩して下手な苦笑を浮かべては言った。
「やはり貴女には敵いませんね。恐らく僕がそれだけ貴女に心を許してしまったのでしょうけれども……我ながら甘いです。」
「ええ、本当に。私も一生貴方には敵いませんよ。」
ふふ、ははとお互いに笑い声を漏らしては一拍置くと2人して大声で高笑いをしだした。
無論突然の出来事に店の客は奥の席に目を向けるが、それでも2人は他の客の目さえ気にする事なく笑い続けた。
どうも、織坂一です。
いや、なんというか期待をしていた読者様には本当に申し訳ありませんでした。
一貫して一気にこのゲッカビジンを読んで下されば「ああ」と頷ける部分もありますが、毎回読んでくださってる読者様にはかなりガッカリする内容だったかと。
ここまで呆気なくなってしまった事に関しての言い訳は伏せますが、一言言うなら、佐伯も美穂を見捨てる覚悟でここに来ているので、本当は腹を割って話し合いたかったけれども、自分が未練を引き摺りすぎてこのザマ……と言う事です。
ですがガッカリさせたままでは終わりませんとも。
酒の席と言う事もあるので、第2ラウンドはこの先です。
なのでまたそこまでお付き合い頂けると幸いです。ではまた次回。




