60.急遽一変
ある夜中の事だった。
私はこの時、色々と短編と言ってもそれ以上に短い掌編小説を色々と発表していたのだけれども、編集者からも数少ない読者からも言われるのが、何故こうも死や愛の美徳に拘るのか?と言われる様になった。
今もそんな下らない評価を受けた美徳を紙に書き散らしている最中だった。
よく有名な作家や文豪は自分の死を予知したのか、それとも最初から遺書として残すつもりだったのか、死ぬ間際には死に関する価値観や美徳を書き残す事が多い傾向がある。なんだか最近の私もそんな傾向に向かって行ってるから何となく不安だ。
まるで人に自分なりの人の愛し方と死ぬ間際に知っておいて欲しい、そんな安い事を書き残すとは、我ながらなんて薄情な話なんだとも思う。でも否定できない事実だから受け入れるしかないと、今日5杯目になるコーヒーの入ったマグカップを口付けていれば携帯が鳴る。唯かと思って携帯を手に取るとそこには想像もしていなかった人の名前があった。
「佐伯さん……!?」
夢か、と思った。何せもう夜中だし、それに眠いから夢と間違えても無理はない。しかし、どうやら夢じゃない様で、恐る恐る震える手でボタンを押すと、そこにはこうあった。
『お久しぶりです。あんな事を言っておきながら申し訳ありませんが、もう1度だけ僕と話をして頂けませんか?』
あの時、あの公園で私を警察に突き出さない代わりに、もう2度と会いたくないと向こうから言っておきながら今更何だ、と言いたくもなるし、これは佐伯さんからの身勝手な要求だ。
だけれども、そんな身勝手ならば私はとうに犯しているし、現にそれを彼は許してくれた。
酷く残酷的な結果ではあったが、もしそれが今からでも遅くないのであれば?
「……」
不気味な程静かな夜にピッ、ピッ、と無機質な機械音だけが鳴り響き、無事に打ち終わると携帯をベッドへと投げ捨てた。
次に会うのは来週の金曜日の夜8時にあのバーで。
もう2度と関わるはずのなかったあの場所で、もう1度酒を酌み交わす事になるのだろうか?
嗚呼、でも佐伯さんは最後にこう言っていた気がする。
――もう1度あのバーで酒を酌み交わしたかった、と。
どうも、織坂一です。
今回は杏癒パートで佐伯の堪忍袋の緒が切れましたね。なんと短い堪忍袋の緒。
と言う訳で次回は久々に再会ですね。しかし時間的には1カ月ぐらいしか経ってないんですよ(苦笑)
まぁ何がともあれ、8章に突入……そして9章が最後となります。
結構自分的には「100話は覚悟せい!」と思いましたが、案外早く終わりそうです。
そして毎回ツイッターの方でもリツイートやふぁぼ有難うございます!
では波乱万丈の第8章は次回をお楽しみに!




