6.蠢くざわめき 前編3
「なんだったんだろ……あの人。」
気づけば思わず呟いていた
この街に来る者は皆、男になりたいと思う者は皆化粧もせず正に男らしい格好をするか、水商売関係の人、美容師などと様々だが、あんな景気の良さそうなサラリーマンなど見た事がない。
その男の姿も秋の夕空等しく煙と共に消えて行った。
夜7時。ようやくイベントが始まり、杏癒もとっくに公園からイベントの行われる店まで移動すると既にそこはもうお祭り騒ぎであった。
耳を劈く大音量の音楽もショーを見る人も、色んな人に声を掛ける娘も様々で、杏癒もドリンクを受け取っては後ろの方でその様子を眺めたり、ドリンクを飲み終えればショーに釘付けになったり、そして1時間経った頃か。自分より多少若い女性がこちらへとやって来てはこう言った。
「どこから来たんですかぁ?」
「東京郊外から久々に。にしてもそのメイドの服可愛いですね。」
若い女性が身に包んでいたのはメイド喫茶にあるようなメイド服で、頭にはフリルではなく、猫耳のカチューシャを付けている。杏癒の言葉にその女は「どうもぉ」と語尾にハートマァクが付く声音で言うと杏癒の手を引いた。
「少し外でお話しませんか?」
「私と?」
予想外の出来事に思わず杏癒は首を傾げた。
見た目としては背は世辞にも高い方とも言えず、どこかぽっちゃりとしているが、髪型は職業上自由な為、明るい色で巻いているが、服には無頓着で今も一昔前に流行った様な服を着こなしてここに来ている。もっと魅力的な女性ならば他にも腐る程いるし、それに退屈そうに酒を呑んだり後ろに下がっている人は多いと言うのに自分に声を掛けるとは珍しい以外の何者でもない。だが、別段断る理由もなかったし、適当に一緒にいるだけならばと、彼女の誘いを承諾し、ホールを抜けた。
どうも、織坂一です。
また言います、「ようやくここまでありつけた!」といった感じです。
ようやくもう1人と出会いましたね。ここでこのメイドの格好をした女の子との出会いがまた物語を左右していくのですが……それは後後に分かります。
なので前編はここまでです。
次からは中編に入るので、どうぞお楽しみに!