58.手が震えるのは何故?
東京へと戻って考えてしまう事が1つ
美穂さんと会えたのは本当に有意義な時間だった。なのにその反面そんな有意義な時間の中でどうも許せないあの人の顔が脳裏にちらつくのか?
正直イライラして仕方無い、考えたくないとも思う。だが、それは今になって思うと彼女自身を責めているのではなく、責めているのは僕自身に対して、だ。
こう後悔するのならば最初から警察にでも突き出せば良かったじゃないか。けれども恐らく警察に彼女を突き出して、彼女が呵るべき刑に処せられても僕はきっと彼女が刑務所にいる間はこの悶々とした気持ちを抱える事になっていただろう。そしてそれは今も同じだ。
もしこのまま美穂さんとの付き合いが順調になっていざ結婚するとなったら、僕は美穂さんだけを愛する為に努力するだろう。
必死に汗水流して働いて、小さな一戸建てでも建てて、子供が出来ればきっと子煩悩になるのが我ながら想像できる。
だが、そうなったらきっとではなく、間違いなく僕はこの悶々とした想いを一生抱えながら生きなければならない。
もう許してしまえばいい。でも許したら僕が僕殺しそうで怖い。嗚呼、我ながら面倒くさい性格だ。
だが、なら、どうして僕はあの時彼女に心を許してしまったのか?それが酷く恨めしいし、彼女の助言がなければ美穂さんとの未来がまた違っていたんだろう。
柴田杏癒は僕の理解者であり、一生の敵だ。
そして馬鹿な僕が誤って想い焦がれてしまった罪深き女性。
もし幻想譚の様に人を殺してもそれが罪にならないならばとうに殺してしまう程に愛憎を抱えてしまっている。しかし、美穂さんに申し訳ないと言う気持ちはやはりあった。
故の矛盾――これが僕を余計に苛立たせた。
「……」
無言でベッドの横に置いた携帯を一瞥する。手に取ろうとしたが、やはり手に取るのを止めた。
けれどもここで僕が切り出さなければ機会は永遠にないかもしれない――そう考えると酷く悪寒がした。
すると、突然電話が鳴り出す。一瞬柴田さん(かのじょ)からかと思ったが、彼女の電話番号は知らない故に別人だと知ると酷く安堵する。そして震える手で携帯を握った。
どうも、織坂一です。
佐伯パートに入り、彼の独白ばかりですね。
佐伯自身も自分が何故ここまで杏癒に囚われるのは何故なのかは気にしてはいますが、この理由を理解するのはもう暫く先の事です。
次回辺りで天の声が聞こえてきますが、それまでウジウジ悩んでいると思います。
今回のタイトルも覚えておくと、最後あたりでこれの意味が理解できますよ。
では次回もお楽しみに




