52.海が映した向こう側
場所は海の見える公園・臨港パーク。
少し冷えるが海の見えると聞いて、すぐに行きたいと言ったのは美穂の方だった。
佐伯は勿論デートスポットなど全くを以て判らないが、先程美穂がお手洗いに行った際に端末で少しここの事を調べてみると、案外有名らしく、後中華街がそこまで離れていない所を見ると、予想よりもきっちりとしている美穂の性格がよく表れていると再認識させられる中、腕を組みながら海沿いの見える道を2人で歩く。
散歩と言うのは嫌いではないし、寧ろ好きだ。
それに海なんかとほぼ無縁に育った佐伯にはどこか新鮮に見える。そこで美穂へと問いかけた。
「美穂さんは何か海に思い入れでもあるんですか?」
デート中にこんな質問は些か失礼かもしれないと気付いたのは、言葉を発してから。
しかし、別段地雷を踏んだ訳でもないのか、美穂はすんなりとその問いかけに答えてくれた。
「んー、私実は海の近くで産まれたの。小さい頃も、高校に入るまでずっとそこにいたけど、当時は嫌だったの。磯臭いし、台風の時は大変だし……でもこうして上京して長らく海を見てないと何だか寂しくなっちゃって。」
「成程……」
要は恋しさに駆り立てられたのか、と納得し、また海を見渡すもやはり佐伯も新鮮な心地だった。
何せ海なんて写真でしか見た事がないし、学生の頃修学旅行で行く予定のはずが危険生物が生息しているのを聞くと、浅瀬に入る事さえ禁止された。
それを考えると酷く新鮮であった。じっと見ていると、美穂がこちらに擦り寄っては上目遣いでこう言う。
「依人さんは海に何か思い出はあるの?」
「いえ……それが無いんです。めっきりそういうのと無縁な人生を送ってきましたから。けど、初めて見た海が美穂さんと一緒で良かった。」
そう呟くと、美穂は赤くなって、少しだけ身を離す。佐伯は口説くつもりなどなく、本音を言ったまでなのだが、彼女には口説き文句に聞こえたらしい。
だが訂正するのは無粋だと思って止めて、また海を眺める。
「海、か……。」
正直言葉に表しきれない程の言葉が佐伯の中に芽生えるも、安直に言えば綺麗の一言に尽きた。そんな中、ふと思ってしまう。
なんでもっと早く見れなかったのだろう、と。
誰と、とは別段思いつかなかったが、言うなれば美穂には大変失礼だが、見るとすれば杏癒と一緒に見た方が色々と良かった気がする。
彼女がどんな人生を歩んだか、海を見た事がある事など知りもしないし、知りたくもないが、それでもそう考えてしまう。
駄目だな、ふと自嘲するかの様に小さく心内で佐伯は呟いた。
どうも、織坂一です。
杏癒達がデートしている一方佐伯達はこうしてました。ええ。
ここに来て言うのも難ですが、割と佐伯は天然キャラなので、ああ言ったボケ殺しも無自覚でやりますのである意味女の敵です。
しかしかなり杏癒の事が気になって仕方ない様ですが、ここで今更ながら補足しますと、佐伯もあの別れ方を望んでいた訳ではありません。
本当は警察に杏癒を突きだすつもりでしたが、唯一の理解者をどうしても失いたくなかったという葛藤にまだ悩んでます。それが浮き彫りになるのはもう少し先ですが……。
ですがなんであれ、次は杏癒パートです。
では杏癒は佐伯をどう思うのか?これに視点を置いて読んで下さると嬉しいです。
また次回お会いしましょう!




