51.待ちわびた抱擁
時間とは嫌でも過ぎていく物。
あれから手紙の内容に追われた後、今度はデートプランに当日に着ていく服やメイクや更にはネイルまでに悩まされて結局デート当日まで杏癒は忙しかった。
集合時間まで後10分。
正直杏癒は今までしてきたデートの中でここまで緊張をする事が無かった。
どれも軽く落ち合っては一緒に1日を過ごし、別れて帰路に着く。本当に些細な事の筈なのにここまで緊張する意味が判らなかった。
1度深呼吸しては心を落ち着かせていると、改札口から誰か出てきてはきょろきょろと辺りを見回している。
もし集合場所が秋葉原であったら、軽く声を掛けられた筈だ。何故ならオフ会などでよく待ち合わせにされるから。
だが、ここは渋谷。ただ辺りを見回している人に声を掛けるのは非常に杏癒にとっては恐怖であって、深刻な悩みではあるが、事前に伝えられた特徴は一致している。
ならば、と意を決して声を掛けてみた。
「済みません、今待ち合わせ相手を探しているんですけれど、唯さん……ですか?」
そう言うと長い黒髪を靡かせて少女は振り向き、杏癒を見るとこう答える。
「もしかして杏癒?」
どうやら合っていた様でほっ、と胸を撫で下ろすと自然に唯に身を寄せていた。
「会いたかった」
「……全くもう」
口調は相変わらず呆れた時に彼女が吐くそれと同じではあったが、その声音は優しく、どこか安堵している様にも聞こえた。
暫くの抱擁の後、杏癒は軽く唯の背中をぽんぽんと軽く叩いて身を剥がすと、その儘手を取っては駅内を出ようとする。
時間は午後11時過ぎだと言うのにやたら陽が眩しかった。
どうも、織坂一です。
前々からこの作品を読んでくださっている読者さんは「ああ、ようやくか。」と満を期して杏癒の婚約者こと唯が出てきましたね。
ずいぶん前に語りましたが、杏癒は同性愛者でも旦那役ではありますが、ヘタレなのでこうも甘えたがりなダメ女です。
まだまだデートは先ですが、また今度は佐伯パートにはいります(またかいな……)
とりあえず彼らは過ごして2日目なので、杏癒両者とも一体どうなるのでしょう?
なので次回もお楽しみに!




