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ゲッカビジン  作者: 織坂一
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46.指輪


 一方家を出て電車に揺れる事20分後には杏癒は駅地下の店へと足を運んでいた。

ここは近くに立つデパートのおまけの様な物で、アクセサリーショップや洋服店だけでなく、文具店や更には金属査定の店まで収納されている為、いつでも人は多い。


 取り敢えず普段寄っているアクセサリーショップに向かうと指輪のコーナーで立ち止まる。

当初、杏癒の計画ではネットで販売されているステンレス製の如何にも結婚指輪と訴える物を取り寄せたかったが、何よりもこの歳になっても親は煩いし、何より相手は学生だ。

そんなちゃんとした物を贈るのもいいかもしれない。


 だが、結婚指輪は互いに愛し合う形である意味束縛と虫除けを兼ねているというのが杏癒の持論だ。

 故に気軽に付けられるこういった店で売っている物で精々我慢してやろうと言う腹でありながらも、その視線は正に真剣そのものでまるで原稿を書いている時と遜色ない程までに、だ。

 サイズに関してだが、聞き出した所同じだった為、デザインも一緒に合わせる事が出来る事に安堵するも下手すれば付き合っている間、結婚するかはどうか未定だがそれまで付けて貰う事になるのだから迂闊に派手だったり、如何にも安物と見れそうな物は送れないというのが杏癒の少しの抵抗であった。


 じっ、と見つめ、時には手に取って質感やデザインを細かく見ていく。

「派手な物じゃなければ」という彼女の希望も考慮しつつ、それっぽい物はないかと見ていくと1つだけ気を引くものを発見した。


 指輪の幅はまぁそこそこで、裏地はローズピンクの装飾に表には英語でこう書いてあった。

「愛しい人よ、傍にいて。」――と。

これだ、と思えば杏癒はレジにいる暇そうな店員へと声を掛ける。

「済みません、これと同じペアの奴ってあります?」

「え、これですか?」


 店員は少し驚いた様であったが別にそこに関して杏癒は興味がなかった。

問題は同じ物があるかどうかだ。それにシンプルなデザインだけでなく、表に書かれた英文が美しく見えたのでこれを贈らずにどれを贈るのかと考えていればどうやら見つかったらしく、1つはプレゼント用に箱に包装して貰う。

 本来ならば自分でやるべき事なのだろうが、杏癒は幼い頃からこの手の物が大の苦手な為、見栄えの為にも金は掛かっても別に気にはしなかった。


 この程度で少しでも彼女との距離が縮まれば安い話だ、と。購入してから暫く。連絡をいれては彼女はこう言った。

『全く……気が早いんだから。でも、嬉しいし、楽しみにしてるからね。』

 帰りの電車に揺られる中で、たった一言こう言われるだけで少し悩んだ甲斐があったと杏癒は頬を緩めた。



どうも、織坂一です。


今回は杏癒パートでしたが、時間軸で言うと丁度佐伯達が旅館に向かってる時と同じ時間帯です。

次は佐伯パートですが、正直この2人の恋愛を展開させるには難しくかなり悩みました。


さて、次回佐伯と美穂は一体どうなるのか?

初めて会ったその日の夜、彼らは何をしていたのか御期待ください。

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