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ゲッカビジン  作者: 織坂一
45/75

45.Sweete Time's


 横浜駅から電車に乗り継ぐ事1時間。

着いた宿はテレビ番組でも取り上げられる程有名な旅館で佐伯は思わず豆鉄砲を食らった鳩の様に暫く言葉が出てこなかった。

 その横で美穂は笑いながら佐伯の手を引く。

「さ、行こ。」

「……ええ」


 チェックアウトも済ませ、部屋に通されるとそこはやはりテレビで取り上げられるだけもあって、値段の割には景色も部屋の設備も良かった。

 彼女の職業上なのか、と思ったがこれはまたいつか話せばいいと飲み込むと、美穂はテーブルに向き合って、こちらにおいでと言わんばかりに手招きをしているので向かい合わせに座ると、美穂は小さな箱をテーブルへと置いた。

「これは?」

「中身は開けてみてからのお楽しみって言ったでしょ?」

 促されるままに箱を開けると、そこにはシルバーの時計が入っていた。

そして美穂は照れくさそうに言う。

「タイムラインで写真を見た時、佐伯さんの腕時計が写りこんでたのを見て、随分と古いから新しいのでも……って思ったの。」


 そう言えば、と佐伯は思い返す。

この今使っている時計は父が大学入学祝いに買ってくれた物で18で入学してから6年間ずっと使っており、革のベルトの部分は所々剥げていたり、傷も目立つ。

「確かサラリーマンでしょう?それなら身に付ける物も気を付けなきゃ駄目よ。」

「でも……」

 佐伯は時計に詳しい訳ではないが、通常のこのタイプの時計であれば、安くても4万円はするだろう。そんなのを自分なんかが貰っていいのかと口籠もる。

「高かったですよね?それに僕は何も……」

「用意してないって?別にいいのよ、私が勝手に依人さんに贈りたいと思ったんだから大事に使ってくれればそれでいいわ。」

「……有難うございます。今日からでも大事に使わせて貰いますから。」

「ええ」


 そう言っては互いににこやかに笑い合う。

男女の付き合いに疎い佐伯でも、男女と付き合うのはこんなにも安堵するのかと思っている中、どこか美穂がそわそわしだした。

 頬を赤くして俯いているが、一体どうしたのかと鈍感なりに考えてふと思った。

 

 自分達は恋人同士。

そうしてこうして実際に会っては旅行をするだけでなく、プレゼントまで受け取っている。

 ならばプレゼントはなくても、それなりの言葉を掛けてやらないと相手も不安だろうと思っては「美穂さん」と名前を呼べば、美穂は顔を上げた。


「んと……上手く言えないんですけど、僕はこうして美穂さんと会えて良かったと思いますし、だから僕から言わせて貰えば……これからお付き合いして行く上で僕は僕なりに貴女を幸せにしますから。」

 そう言うと美穂はまた俯いては頬を赤く染める。

ああ見えて案外恥ずかしがり屋なのかな、と内心で思ってはテーブル越しに頭をそっと撫でた。


どうも、織坂一です。

とうとう6章に入り、両者の恋愛にも入っていきました。

まずトップバッターを切ったのは佐伯の方で、以前杏癒と呑んでいた時の悩み相談とはかなり大違いですが、やはり佐伯は恋愛面に疎く、女々しい面も持ち合わせているので、杏癒との出会いをキッカケに男前へと変貌するという快挙を成しました(果たして快挙なのか…?)


これも一部新潮社様にお送りした原稿とは一部改変している所はありますね。

さて、次は杏癒の方ですが、正直こっち側はだらだら続くので正直鬱陶しいです。

ですがまぁ上手く諧調したいですが、何せ出版する方と違いを出したいので、少々手荒いですが、泥臭いシーンにどうかお付き合い下さい。


流石に出版版はこの鬱陶しいシーンも改変するので、どうぞお楽しみに。

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