42.2人の幕
「いいです。全てを貴女の口から聞けたので満足しましたから、今回の事は警察には言いません。貴女が重要参考人として呼ばれない様に僕が尽力しましょう。」
「……どうして?」
スッ、と杏癒の頬に一筋の涙が伝う。
そして弱々しい声でぽつりと呟いた。
「どうしてですか?私は全て捨ててここに来たって言うのにどうして光を見せるんですか?貴方は私が憎くないんですか?」
「憎いですよ、正直警察に突き出してさっさと貴女の事なんて忘れてしまいたいぐらいに。……でも何故こう言ってしまうのか自分でも判らない。だから一言だけ取引きを受け入れて下さい。」
「取引き……?」
すると佐伯は最後に杏癒に精一杯に無理に作った笑顔を一瞬だけ見せて
「もう2度と僕の目の前に現れないで下さい。本当に貴女と一緒にいると僕はおかしくなる。……でも1つだけ我儘を言うならば、もう1度あの店でもう一杯貴女と呑みたかった。では。」
そう言っては最後、ただ杏癒に見せた物は酷く寂しい背中だった。
「……これで、良かった……?」
誰も居ない場所で杏癒は小さく呟く
全ての罪と罵倒を受け入れる事を覚悟していたのならば理解者である佐伯を失う事さえ覚悟していた。
こうして別れを告げられる事も想定内だ。
なのに何故こんなに胸が痛んで、今にも呼吸を忘れてしまうぐらいに苦しいのか。
「嫌だなぁ……本当に。」
思わず自分の愚かさに笑ってしまう。
自分が勘違いしていたたった1つの事。
あの佐伯依人と言う人が優しいなんていう幻想を抱いて本当に馬鹿馬鹿しいと思う。
あの人が自分に情けをかけたのは理解者故だったからだ。痛いぐらいに気持ちが判るから理解者としてかけた最後の情け。
決して優しさなんかではない。
「馬鹿みたい」
呆気ない一言は今頬を撫でた風と共に消えた。
どうも、織坂一です。
ようやく杏癒と佐伯の話に幕がおりました。
佐伯の方は結構前から杏癒と一緒にいると、自分がおかしくなるのは薄々自分でも勘づいていたので、まぁこういう幕引きも必要かな?と
では次からはどうなるのか?と思いますが、また佐伯の独白から次の話に繋がって行きます。
なのでまたまた次回をお楽しみに。
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