41.愚かしさに嗤う
「だって判り易いんだもの。ずっと黙ってましたけど、途中から顔に書いてありましたよ、言いたい事全てが。」
「もしかして柴田さん、貴女……。」
ここに来てようやく佐伯は自我を取り戻す。
そう、彼女は婚約者と2人の世界でいられるならば手段は選ばないし、現に妹である美月を傷つけた。
だが、杏癒はその2人の世界が物理的世界だとは一言も言っていない事を。
「最初から貴女は罪を背負うつもりでここに来た……?」
「それ以外に何があります?寧ろ私は貴方に殺されるのを覚悟でここに来たんですよ?大変だったんですから……彼女の投稿した写真やタイムラインを全て遡る所か携帯のIPを使って何処と契約してるのかさえ調べて、アイツが通っている学校を特定するの。まぁこんな事、アイツが居なくて寂しがって泣くより全然いいんですけど。それとこれ、返しに来ました。」
そう言って鞄から取り出したのは初めて出会った時に渡した儘だった青いハンカチ。
しかし、血を拭った所為なのか、所々黒くなっている。
「綺麗に落とす事は出来ませんでしたけど、私を恨むのに使って下さい。もう2度と私を許さない様に。」
「……貴女って人は」
本当に判らない
例え本人が自分が単純だと笑っても、第3者からの口で聞いてもそれは全て虚像だ。
何故なら、この柴田杏癒と言う女には原型などなくて、まるで水面の様に変化する。
そしてその更に奥を知りたいのならば、その池に潜るしか手はない――つまり彼女と言う池は底無し沼。
杏癒も言いたい事は言い終わって満足したのか、涙を拭っては佐伯へと問いかける。
「どうします?私は別に全部の罪を負って警察に行ってもいいんですが。」
「……貴女って人は、本当に馬鹿な人だ。」
「え?」
今度は苦笑しながら佐伯は言う。1歩だけ杏癒へと近づいては告げる。
どうも、織坂一です。
今回はもう杏癒のいい訳と言うか、ようやく彼女の本心が出ましたね。
彼女自身、婚約者と一緒にいられるのならば「空想」でもよかったんです。ただ、どうしても美月への憎しみがそれを壊しただけであって。
けれども最初の(1話)下りからして矛盾している様に見えますが、彼女自身「それを望んでいるだけ」であって、叶うはずがないというのは十二分に判っているんですね。
だから現実でこうして唯一理解できる佐伯を失いたくない、それでももう別れを言わなくてはいけないと、佐伯の大事な妹を傷付けた贖罪はこれだけだという事です。
けれども佐伯の中から自分を消したくもなくて、過去形でも理解者であったと言えるように、あの青いハンカチを手渡したというわけです。
ここで杏癒の内情は終わりになります。
次から佐伯はどうするか?という一点のみで更に5章は意外な方向へ転換していきます。
なので今後もお楽しみに!




