39.返答
井の頭公園は正式名称・井の頭恩寵公園と言う。
武蔵野駅から約10分で、秋になると紅葉が池を彩るそんな公園である。
嘗て残虐な事件が起こった事で有名でもあるが、そんな綺麗かつ玲瓏な場所で1人の男が追求するなど笑えた話であった。
現に佐伯は午前10時からここに来ては、ずっと水面に映る紅葉を見てベンチに腰掛けていた。
別段何かを考えている訳ではなく、寧ろ頭の中はスッキリとしていた。
ここに来てからようやく時計を見ると丁度正午12時を指している。
そろそろ来るか、と思ってベンチから立ち上がった瞬間に今はもう聴き慣れたその声がこの場に響く。
「こんにちは、佐伯さん。」
「こんにちは、柴田さん。よく僕のいる場所が判りましたね。貴女は本当に不思議な女性だ。」
どこぞの魔王らしき台詞を吐くも、今回彼女を断罪するのは佐伯の方であって、ある意味場違いすぎるこの言葉に杏癒はこう返した。
「……少し歩き回ったんですけどね。でもなんとなく佐伯さんだったらこういった所に来そうな気がしたんで。」
「そうですか」
ばっさりと言葉を切り捨てればもう1度ベンチに腰掛けては佐伯は呟く。
「どうぞ。長話になりそうでしょうから、腰掛けて下さい。」
「そうですかね?」
ここで杏癒も勝負に出る。
正直ここに来るまでこの話をはっきりさせたくて、あの事件の話の一点だけを考えて、そして腹を据えたつもりだ。
そして佐伯はその言葉に冷たい視線で杏癒を見つめては言う。
「ならば貴女には僕が貴女を呼び出した用件が判るとでも?」
「大体の予測はついてます。この間メールで教えてくれた妹さんの話ですよね?」
「……如何にも」
あまりの杏癒の冷静っぷりに思わず佐伯だけが浮かれてしまいそうになる。
しかしそうあってはならないと佐伯も自分を押し殺しては話を切り出す。
「では本題に入るとしましょう。あの日……あの金曜の夕方、柴田さんはどちらにいました?丁度僕の妹が襲われた推定時刻が確か6時過ぎ……そして遅れた理由も。」
「……」
佐伯の問い掛けに一瞬黙る杏癒。しかし、3拍置いた頃に彼女は笑って答えた。
「都心ですよ。私の家からじゃ少し時間が掛かってしまって。そして家に着いたのは丁度約束前の午後7時30分過ぎ。その後1度家に戻っていたら本当に母親に足止めを食らってしまって……つまりは行き違いだった訳です。」
「では何に?勝手な偏見で申し訳ありませんが、貴女程きっちりした人が遅刻などそうはないでしょう?それと都心と言いましても、貴女が行く場所も貴が知れてるのでは?」
「つまり佐伯さんはこう言いたいんでしょう?私がもし都心のとある場所に行っていたとしか考えられないと。どこだと予想しますか?」
瞬間、冷静であった佐伯の緊張の糸が切れる。
思わず睨み返しては低い声で呟く。
「ふざけないで下さいよ、僕としては重要な話をしているんです。」
「は、はは……。」
どうも、織坂一です。
本編ではようやく第5章の部分に入り、しかも開始早々険悪ムードですね……。
事実佐伯には怒りで余裕がなかったので、こんな捲し立てている上に杏癒も美月にした事は本気ですから、ふざけてるも何もまだ佐伯と別れてしまうんじゃないか?理解者を失うんじゃないか?という不安はありますけど、まぁ……ねぇ?
ここまで来たら杏癒がどういった女なのかも読者の皆様も判ると思うので、あえて言及はしませんが、次回は最悪です。
多分気分が悪くなって途中退席その他諸々を覚悟しておりますが、どうか次回は御容赦を……。




