37.修復前の足音 後編
それを聞いてはぽんぽんと頭を叩くと、足早に病室を出て警察の方へと連絡を入れる。
「済みません、佐伯ですが今妹の方からとある事を聞いたんです。どうかお時間頂けないでしょうか?」
その後警察が駆けつけ美月の病室まで来た時にはすっかり泣き止んでいて、刑事がまず美月へと尋ねた。
「お兄さんから聞いたんだけど、その唯って子は一体誰なんだい?」
「……同じクラスの子で、私の好きな人です。でも唯ちゃんが犯人な訳じゃありません。」
「と言うと?」
「……最近唯ちゃんに告白をしたんですけど、唯ちゃんは好きな人がいるから受け入れられない、って。だから私が唯ちゃんを諦めきれずにずっと傍にいたんです。あの日も少し戯れあってただけで、校門を出たらあの茶髪の悪魔に……。」
事情に関しては誰もが納得した。
では次に聞くのはやはり真相であるその茶髪の悪魔についてだ。
そして刑事はようやく核心を突く。
「で、その茶髪の悪魔ってどんな感じの人だった?」
「っ、」
一瞬美月は言葉を呑む。
刑事達も今回も無理かと溜息を吐いた瞬間に美月はぽつりと呟いた。
「生きている事。ああ、それは、何というやりきれない息もたえだえの大事業か……。」
「え?」
刑事達が目を丸くするも、次の瞬間美月がようやく口を開く。
「背は150センチ近くで、中肉中背……髪は巻いてあって、下はTシャツ、黒のカーディガンを着てました。」
思わず誰もが顔を見遣った。
そしてそれを聞いた刑事は言う。
「じゃあ確認の為に、その唯ちゃんにも少し心当たりがないか聞きたいからその子の電話番号を聞いてもいいかね?」
しかしこの部屋にいる刑事2人と美月、そして佐伯の4人の中で美月の言葉に1番強く反応したのは佐伯だった。
「Tシャツにカーディガンに茶髪の巻き髪……?」
そして150程度の身長と聞いて心当たりがたった1人だけ。
そんな茶髪の巻き髪で150程度の身長の女など街中そこらにいるだろう。
だが、佐伯が見た時、その人物はいつも黒のカーディガンを着ていたのだ。
「まさか……」
と呟いた瞬間に頭に湧き上がった言葉。
「許さない」
殺意と凍える声音で呟いた怨嗟の言葉。
「許さない、アイツに手を出す輩がいるなら。そんな奴」
そして返ってこないメッセージとあの日遅れた用事。
この瞬間佐伯は確信した
彼女――柴田杏癒こそ妹を傷つけた張本人だと。
「……許さない。」
今度そう呟いたのは佐伯の方だった。
そしてズボンのポケットから携帯を取り出してはとある人物へとメッセージを送る。
『突然申し訳ありませんが、明日日曜日に井の頭公園まで来てくれないでしょうか?大事な話があります。僕は貴女が来るまで待ってますから。』
許さない、と言った手前だが未だ確証はない。
であれば本人の口から聞き出すしか道はない。
もし彼女が罪を認めたのならば、その時は自分が彼女を警察へと突き出すのが役目だ。
たった1人の理解者として。
そして何より美月の兄でいる為。
だがら、どちらも彼には譲れなかった。
どうも、織坂一です。
ようやく美月が口を開いた事で杏癒が美月を襲った犯人なのでは?と佐伯が答えに辿り着きそうになりましたね。
一応美月も乗り越えたので修復したという事で、今回はここで踏み切りました。
次回からですが、やはり2人がどうなるのか?が重点になります。
まだそんな深刻な状態にはならないので大丈夫かな…?とか安堵してますが、次回をお楽しみに。




