33.罅
その時だった。
佐伯の言葉がこの場を重くしたのは
「何だって?」
深刻そうな声音に2人は佐伯を見やる。
「――で、容態は?」
容態、と言う深刻な言葉。
すると「判った」と短く答えては携帯のボタンを切っては足早に椅子に置いていた鞄を取ると、財布を取り出し札をカウンターへと置く。
「柴田さん、済みません。僕は突然の用事が入ってしまったのでここで失礼します。」
「え?ああ、はい……。お気をつけて。」
「今日は有難うございました、このお礼はまた今度。」
そう言い残せばどこか足早に佐伯は店を後にする。その背を見送ってマスターは呟いた。
「残念だったねぇ……佐伯さんも。こんな時に急用が入るなんて。しかも深刻そうだったし。」
確かに、と杏癒は思った。
何せ容態と言うのだからきっと身内に何かがあったのかと思うとどこか不安にもなる。
「心配?」
顔に出ていたのか、それとも心内を読んだのかマスターが呟くと杏癒はコクリ、と首を縦に頷くとマスターも「そうだねぇ」と呟く。
「確かに心配だろうけど、1番不安なのは彼だからね。ここは温かく見守っておきなよ。」
「うん……」
今までここには1人で呑みに来ていたが、確かに話が途切れて静かになる時はあった。だがここまで静かだった事はあっただろうか?と過去を思い返しながら、杏癒はグラスを傾けた。
一方佐伯の方に入った知らせは最悪だった。
母から告げられたのは、妹が何者かに襲われてアキレス腱を損傷した上に肩にナイフを突き立てられ、出血多量という状態だそうで、彼は近所に住んでいる従兄弟に家を任せ、病院へと一直線で向かった。
病院に着いた頃には妹は治療を施されベッドで横になっていた。
すると、病室へと母親が戻ってくるのを見るとまずは尋ねた。
「母さん、美月の容態は?」
佐伯美月――佐伯よりも6歳下の妹であり、年齢差や美月自身も兄離れしていた為、話す事は滅多にないが、それでも大事な妹には変わらない。すると母はこう告げた。
どうも、織坂一です。
ちょっとブラックな始まりからして、終わりでとうとう急展開を迎えましたね。
そうです、かの美月というのは佐伯の妹で唯という女の子にしつこくしていた事から杏癒に怪我を負わされますが、さてこれだと杏癒と唯の関係性ももうバレますが、文面上で明らかになるのはもう少し先です。
ここから先ですが、この出来事を佐伯が知った事によって杏癒との間が急展開します。
……という部分はやはり欠かせない転換期だったので、かなり気合をいれました。
果たしてこの先どうなるのか、次回をお楽しみに。




