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ゲッカビジン  作者: 織坂一
30/75

30.1人待つ


「遅いですね……」

 9月のやや寒い夜に駅前で待つ人影がぽつりと呟いた。

時刻は午後8時40分過ぎ。

仕事を早めに切り上げ、約束の駅で待っていた佐伯は腕時計に目を遣っては辺りを見回すが、見慣れたあの姿は見当たらない。

「連絡してみますか……。」

 そう携帯を開くとメッセージが既に1件携帯に届いていて、開くと送り主はやはり杏癒だった。

『少し親に足止めを食らったので30分程遅れます!済みません。寒いでしょうから先に行ってて下さい。』

 それを見て携帯を閉じると、杏癒の言うとおりに先に店へと向かう事にした。


 今日はやけに冷え込んでいて、冬物のコートを着ている人間も電車内でちらほらと見かけた。

それにいつまでもここにいたら邪魔になるだろうと店へと向かい、歩いてものの10分で店に着くと、店のドアを引くと「いらっしゃいませー」との声が店内に響く。

 すると奥から出てきたマスターが少し拍子抜けした顔をするのに佐伯は一言だけ怪訝そうに呟く。

「……何ですか?」

「否、今日は杏癒ちゃんと一緒じゃないのかなって思って。ほら、佐伯さんも会社の人と来た事はあるけど、なんだか俺の中では杏癒ちゃんとセットでないとしっくりこない気がしてねぇ。」

「そうですか。ですがその通り柴田さんと呑みに来たのですが、彼女は用事が入ってしまったらしく、先に店に行ってて欲しいと。」

「成程ねぇ……今日は冷えるし仕方ないだろうね。取り敢えず今日は何時間にしとく?」

「では2時間程。場合によっては延長しますが。」

「了解。指名……は、駄目なんだっけ?にしても佐伯さんも物好きだなぁ。ウチの店の娘より杏癒ちゃんを選ぶんだから。」

「選ぶ、と言う訳ではありませんよ。初めて来た時に言ったでしょうに。この商売をするのを知っていても、女性と話すのは苦手だと。」

「でも杏癒ちゃんも女の子じゃない」

 

 マスターの最もな意見に対し、佐伯はしまったと内心で悔いるも苦笑しては言う。

「誤解ですね。別に彼女を男らしいと見ている訳ではなく、柴田さんは話し易いんです。失礼ながら言わせて貰えば知的な訳ではありませんが、何故か話が自然と弾むので。」

「んまぁ確かにあの子は面白いしねぇ。確かに話が合う人間だったら選んじゃうか。」

「失礼ながら」

「ふふ、ほんとにね。何呑む?」

「では、少し今日は凝ってみましょうか。柴田さんは何時もここに来た時には何を頼んでいるんです?」

「ん?あの娘麦酒(ビール)とかが苦手だから大体は焼酎かハイボールを呑んでるよ?」

「じゃあハイボール1つ」

「了解。にしても今日はやたら杏癒ちゃんに固執するねぇ。何かあった?」

「いえ……」

 

 そう言い黙るも、数秒置いてから佐伯はどこか苦しそうな顔をして唾を飲み込むと重い調子でマスターへと話しかけた。

「……済みません、今から話す事は柴田さんに内緒で頼めますか?」



どうも、織坂一です。


前回はああいった殺伐した感じでしたが、一応佐伯との約束があるので今杏癒は遅れてくる事になったので、佐伯がぼっちでお店にいるというシーンで、何故こう呑みに誘ったのかは次回で判明されます。

そして何故佐伯も佐伯で婚約者がいながらこうも杏癒に固執するのかもです。


ただしこの4章からは一気に崩しにいくので、この先をもっと楽しみにしていただければなぁ……と。


今回で30話を迎え、単純計算するともうこのゲッカビジンを毎日更新して一カ月が経ちました。

未だ読者は少ないですが、ツイッターなどでリツイートやいいねをしてくださった方、そして現在もこの話を読んでいる皆様に感謝のお礼を。


これからも話は続いていきますので、よろしくお願いします。

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