3.杏癒の戸惑い
しかし不安定職である杏癒は暇な時と寝る間も惜しい程忙しい時の差が激しい上に夜遅くまで起きている時は大体月に5回あればいい方だ。
それを元に杏癒の論に則ると、忙しい時に返事を返せなかったら相手に寂しい想いをさせてしまうと言う事。
それが許せない為に連絡を取るのも億劫になるが、やはり自分の方が耐え切れずに連絡してしまうというオチなのだが。
そして悲しい事に杏癒は相手がどんな人なのかを知らない。
女である事は知っている、性格や口癖、好きな事も趣味も知っているが、年齢や職業、ましてや学生なのかも判らない。
電話した事は数度ある。だがどうしてもそんな些細な事よりも自分の愛を字面上ではなく自分の口から言いたいし、無論逆も然りで相手からも聞きたい。
それを考えたらどんどんそういった背景話はどんどん遠ざかると同時に聞き辛くなっていってしまった。
だが、杏癒も仮にも25年も生きているのだから相手の背景が大体幾つなのか予測はつく。
でもそれが今の2人の幸せに影を射す様であれば言いたくもない。
だから言えずに中途半端な儘、「既婚者」と言う文字に縛られているだけ。
陽の当たる場所に居たい。それが杏癒の望み。
画面越しではなく実際に会って、手を繋いで何気ない話をしながら食事をしたりするだけでも。
たったそれだけでも構わない。こんな暗い道を歩くのは不安すぎて泣きそうになる。
そんな時に限って筆が進むものだから、杏癒は小さく欠伸をして、バーの近くにあるコンビニに寄ってはエナジードリンクを買い、今度こそ帰路を辿った。
ちなみに原稿の出来上がりはまぁまぁで、進んだが朝気づけば机を枕に正午12時近くに目を覚ましたのだった。
どうも、織坂一です。
ここでようやく杏癒が婚約者との関係をどう考えているかという時点まで分かりましたね。
杏癒にとっての「既婚者」と現実での既婚者はどうも曖昧だと書き終えた後でも思います。もうちょっとここを深く掘り下げたかったのですが、ここであまり言葉を重ねすぎると「くどいわ!」と苦情がきそうだったのでやめました(苦笑)
さてここから物語は展開していくのですが、本当に序の序です。
「もどかしい!」かと思いますが、まだ今後の展開にお付き合い下さい。