29.潜む悪魔
※今回は残酷、グロテスク描写が本文にありますので閲覧の際にはお気をつけ下さい
これは季節故の寒さではなく、明らかに『何か』が影響している。
恐る恐る後ろを向けばそこにはとある女が1人立っていた。
左手には黒い鞄を持ち、暗くて表情は見えないが、明らかにこの女は自分を見て笑っている。
その凍った瞳は明らかに何かに狂っていた。
あまりの不気味さと恐怖に1歩下がろうとした瞬間に思い切り手首を掴まれては向こう側へと引かれる。
「ッ!?」
「……さっきのは良い証拠になったよ。テメェはあんな風に何時もアイツにひっ付いてやがったのか。」
「だ、れ……?」
そう問い掛けても女は答えない。
今度は笑みの代わりに、女が持つありったけの憎悪が美月を襲う。
「誰か、助け……っ!」
叫ぼうとした瞬間に、美月の鎖骨の丁度窪みの部分にトン、と指が肌を突く。
すると思わず喉を押さえてよろけた瞬間に女は美月の首根っこを掴むと、その儘学校の門とは反対側の人の通らぬ道へと投げ飛ばす。
鞄のチャックを開けたが、美月は抵抗しようにも抵抗出来なかった。何故か?
「抵抗しようとしたって無駄だよ。そこはある意味人間の急所の1つだ。軽く突いただけで動けなくなる。もっと強くすれば、どうなるかは判るだろ?」
「あ、ああ……。」
目の前に広がる恐怖と女の冷たい瞳
助けを求めてもきっと無理だろう。何故なら今美月は恐怖に支配され、声が出ない。
すると女は笑っては吐き捨てる様に言う。
「ざまぁみろ」
そして黒い鞄から取り出し、右手に握ったのは1本のナイフと鉈。美月の恐怖は既に最高潮まで来ていた。
この儘では殺される――そう思った瞬間だった。女が告げたのは
「大丈夫、安心しな。殺しはしねぇよ。ただテメェが2度とアイツに触れられない様に細工してやるだけだ。」
そう言った瞬間に、瞬きした程度の速さで鉈は美月の足首を掠りっては紺色の靴下を血で濡らしていく。
「ひっ……」
「今更悔やんだって遅い。私は全部捨ててでもこうすると決めたんだよ、アイツとの幸せの為に。」
そもそも鉈は何かを切断する為の物で、鋸だと傷は浅いし、かと言いナイフだと長さが足りない。
故に刃を更に研いで改造しては今、美月のアキレス腱を切り割いた。
痛みは尋常ではないだろうが、鎖骨に受けた一撃の所為で声が上げられない。
「この、悪魔……ッ」
そう涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして反論する事しか出来ない中で女は笑う。
「知ってる」
とだけ呟いては肩にナイフを突き立てた。
今日は金曜日。佐伯と呑みに行くと約束した日だ。
ナイフを振りかざした瞬間、とうとう激痛に耐えかねて気を失ったのを見ては、女――杏癒はその場を去っていく。
彼が精一杯訴えていた思いやりを捨てた代わりに、愛しい彼女との幸せを築く為に。
こうして残酷にも刃を振り下ろした。慈悲になど目も呉れずに。
どうも、織坂一です。
はい、これで1つの夜は終わりました。
前回も言いましたが、色々と詰めた結果がこれな訳ですが、もう1人出てきた唯と美月についても伏線は張ってあるので、その2人の正体は誰なのかは今後のお楽しみですね。
ですが、杏癒が美月を手にかけた(殺してはいませんが…)事によって、佐伯との関係が一気に崩れていきます。
さてでは2つ目の夜は次の話に続きます。
杏癒と佐伯はどうなるのか?そして唯と美月の正体は誰なのかお楽しみに。




