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ゲッカビジン  作者: 織坂一
27/75

27.夜へと 後編


 だがこうなってくるとする事がないのが欠点で、かと言い今晩呑みに行く金も世辞にもあるとは言えなかった。

だから部屋に静かに音楽が代わりに杏癒の耳を撫でていた。

くるくると静かに回る円盤はハープとピアノの音を奏でている。


 曲名はアヴェ・マリア。

所詮レコードとはまた珍しいが、一時期世話になっていた大学の先生と音楽の話をしていたらレコードが欲しくなったのだ。

先生も先生で歳は50近くであった為、洋楽と言ってもモーツァルトやバッハなどの書いた曲を好んだ。

杏癒はその話を聞いて小学校以来に聞いたその曲を今聞いたらハマったと言う訳だ。


 だが柴田杏癒と言う女はそんな優雅な絵面が似合う人間では無い。

その横でパソコンを開いてはカタカタと検索エンジンで何かを調べている最中だったのだ。

検索エンジンにある文字は「婚約指輪」の文字。

不定収入である杏癒に結婚指輪を買う金など一文足りとも無いし、それに渡す相手である婚約者もプロポーズした際に「指輪を作ろうか?」と言ったら渋っていたから余計である。

 なのに調べるのは憧れかそれともまた別に考えがあるのかまでは判らないが、誰も居ない部屋でぽつりと呟いた。

「やっぱり妥当なのは鎌倉かぁ……。」

鎌倉で指輪と言えば、確かに恋人同士が良くデートスポットに選ぶ鎌倉でついでに指輪を作ったり、それ目的でわざわざ鎌倉まで行くと言うのも有名な話だ。


 机に突っ伏せては思う。

佐伯の言っていた人への思いやりと自分の幸せについて。

 自分の幸せは彼女が自分以外を見ずに2人の世界で生きる事だが、普通生きていてそんな事はまず有り得ない。

人間の感情と四季は何時も移りゆく物で、永久不変とされる物も風化されていく現状。

ならば思いやればいいのか?否、無理だろう。

こんな人間がそんな風に人に優しくなど出来ないのは杏癒自体がよく知っていたから。

その儘の体勢で軽く溜息を吐く

一体自分はどうすればいいのか?

だけれども柴田杏癒は柴田杏癒以外の何者にもなれない。だからこそ部屋の隅に置いてある黒い鞄へと顔を上げては目をやる。


 あの黒い鞄に詰まった物は自分の我儘と自分の夢を叶える為の鍵となる物が詰まっている。

ならば使えばいい、自分の幸せの為に。

これから掴むたった2人の世界を叶える為に。

はぁ、と短く溜息を吐いては杏癒は思う。

今こそ彼女への愛を示そう、と。



どうも、織坂一です。

えっとここまでが「とある夜」までに繋ぐ話になります。


次回からこのゲッカビジンという作品自体の転換期となりますので、こんなのほほんとしてられるのも今の内……と言った所です。

毎回毎回このあとがきで次の話の話をしてますが、正直この繋ぎ部分は本当に繋ぎでしかないので語れる部分もないですし、自分自身も書いている最中、「所詮は梯子よ!」と原稿用紙に書きなぐっていたのですが、恐らくこの未熟さが落選した理由の1つでしょう。


という訳で見苦しいいい訳と、「次回はお楽しみに!」で締めさせて頂きますが、重要なのでもう一度。


次回をお楽しみに!

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