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ゲッカビジン  作者: 織坂一
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26.夜へと 前編


 ピピ、と携帯が鳴り誰からかと杏癒は携帯を見て見ると相手は佐伯だった。

前回会った時に紹介したあの店の評判が会社中で良かったと言う文面に胸を撫で下ろし、メッセージを下に進めると酒呑みの誘い。

別段断る理由もないし、すぐに返事を返した。

『上手くいったみたいで良かったです。金曜日なら空いてますから、また8時頃でいいですか?』

『はい。ではまた8時に駅で』

物の1分で返事が来たメッセージに驚くも今は昼時であり、休憩時間なのは在宅業の杏癒でもなんとなく理解した。


 この時、素直に言えば杏癒は単純に嬉しかった。

佐伯の言葉のお陰で婚約者にも注意は促せたし、何より彼と呑んでいる時は気が楽だった。

今まで1人酒だった杏癒にとってこれは人生の好転でしかない。

だが誘いを受けたのは金曜日。丁度その日には大事な用があるのだが午後8時であればきっと終わっているだろうから問題もなかった。


 でも言うならばどこか寂しそうだった

もしかしたら婚約者と何かあったのかもしれない、直感でそう感じた。

まだ会ったのは2回だけでしかも両方とも酒の席でしか話を碌にした事がないが、それでも佐伯の様な男は仕事面という私情に於いて人に弱音を吐く人ではないと思う。

 

 ああ言った人はそもそも現実を上手く受け止めるから例えトラブルがあったとしても落ちついて対処するだろう。

簡単に言えば現実的なのだ。

だから多面的に物事を捉える。だからあんなにも的確な指摘が出来る上にああ言った聞き上手なのだ。

 ただ、それが影を射すとすれば、感情論の話と相場が決まっている。

それに関しては彼の古くからの知り合いである幸とのやり取りを見ていればすぐに判った。謂わば一見複雑そうに見えて佐伯と言う男は思ったよりも単純なのだ。

だが杏癒は彼の様に聞き上手でなければ、頭の回転も良くないから、その場しのぎでしか物が言えない為、現状は会ってからでしか確認は出来ないし、今下手な事を言って、大事な恩人を苦しめたくはなかった。


 それとは反面、あれ以降杏癒も婚約者と連絡が取れずにいたが何故か冷静であったし、今は黙っておくのが吉だと冷静に判断が出来た。

そして更に珍しいのは病まなくとも原稿が恐ろしい程進んでいるという事。

先程編集の方に原稿を出してきたばかり故に、今は自室でくつろぎながら珈琲ではなく、珍しくホットミルクを飲んでいた。


どうも、織坂一です。


前回はあれだけ動きがあったのに今回はすごく静かですね。

最後にあった佐伯の謎の言葉も、まぁこの後2人が飲みにいくシーンで明かされますので、もうしばらくお待ちください。


ただタイトルをまた今回分けたかと言うと、そろそろとある一悶着が発生するので、その夜と佐伯と飲みにいくその夜へ向けてという意味で名付けさせて貰いました。


またマイペースに更新されますが、今後もどうかよろしくお願いします。

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