24.動機
『大丈夫?』
あの後すぐに会計を済ませて帰路に辿ろうとしている途中にメッセージを返した。
すると返答はこうだった。
『大丈夫、そこまで心配しなくて大丈夫だから。』
はぁ、と思わず重い溜息を吐く。こんな単調な返事で本当に安心できたらそれこそ悩まないが、あまり干渉するのも拙いかと考えては早速佐伯の知恵を借りる事にした。
『何かあったら証拠を残しておきなよ?怖くて警察に行けないんなら私にその証拠を送っておけば第3者でも警察で伝える事は出来るから』
その返事はすぐに来た
『有難う。じゃあ万が一の時は頼らせて貰うね。』
『うん』
とだけ返し、今は安堵しておく事にした。
確かに冷静になれば、今すぐ大事になると決まった訳ではないのだ。
ならば今は見守るべきだ、とまた自分に無理に言い聞かせた。
「今はこれしか出来ないよなぁ……」
そう項垂れた瞬間にまたピピ、と携帯が鳴る。
婚約者からかと思ったら相手は意外な人物だった。
『今日は有難うございました、おかげで上司に善い顔が出来そうです。それと先程話していた話についてでしたら何時でも相談に乗りますよ』
「佐伯さん……?」
思わずそのメッセージを見ては先程のマスターの話を思い出す。
――こっちの世界に足を突っ込んだ事もない男がああ言うのは何らか関係してる。それが本当に杏癒ちゃんを気になっているのか同情なのかまでは判らないけど。
「……そんな筈、ないよ。」
そう自嘲気味に呟くと、俯いた儘こう返した。
『有難うございます』
言いたい事はたくさんあるのに言う言葉はわざとこれだけにしておいた。
でなければきっと自分がもっと我儘になってしまうだろうだから、と。
肉食獣は餌である草食動物を捕まえるのに苦労すると聞くが、存外大した事はないらしい。
別に他の人を好きだっていい
少しでも自分を見てくれればそれでいい
だって言っていたじゃないか
「最近、寂しいんだよね。」
と。ならばその願いは私が叶えよう。
「待っててね」
そう言って肉食獣は餌の居る場所から姿を消した。
どうも、織坂一です。
佐伯の説得を受けて正気を取り戻した杏癒ですが、ここで本編では第4章へと入っていきます。
ラストになんだかまた新しい人が現われましたが、一体その人は誰を狙った肉食動物なのか?
少し先の事を言ってしまうと、第4章は全てが崩壊します。
その為のおぜん立てはもう揃えてあるので、一気に崩してから、その後に入ります。
この先からははっきりいって純文学にしては重いですが、どうか最後まで付き合ってくれるとありがたいです。




