19.お穣嫌い
「あのー、佐伯さんはどこにお勤めしてるんです?」
「ここ近くで印刷会社に」
たどたどしく言う様子に案外ばっさりと佐伯は切り捨てた。
これは拙い、と杏癒は一瞬で悟った。
そしてどこかおかしい。
「ごめんね、ユカちゃん。後でチップ払うから取り合えず今はマスターの所行ってくるわ。」
「ううん、大丈夫。」
そう言うと、カウンター席へと向かい、無言で佐伯が付いてくる。まだ19と言えど、この店でナンバーワンのユカをあそこまで困らせるとはまるで堅物。正直出会ったあの日とは別人の様。
「いらっしゃい、お兄さん。杏癒ちゃんから話は聞いたよ。敵情視察だって?」
「ええ、まぁ。」
ここまで来るとどこか恐怖を感じるが、こうなったら店で色んな苦労を乗り越えたマスターに頼るしかなかった。そしてマスターは気軽に話をしていく
「ウチの店は基本若い娘が多いからねぇ……おじさん連中は喜ぶと思うよ?」
「でしょうね」
「……」
「……」
一瞬にて希望は潰えた。
ここまで来たら店にも迷惑を掛けるだろうと判断した杏癒は隣に座る佐伯の肩を叩いた。
「佐伯さん、気に入りませんでしたか?」
マスターのいる前でこんな事を言うのは失礼だが、そこは目を瞑って欲しいと目線で訴えるとマスターも頷いて承諾はしてくれた。
「いや、そうではなくて……」
「?」
では一体どういう事だろう?と思っていれば、佐伯はテーブルにグラスを置いては言った。
「僕、実は女性と話すのが苦手なんですよ。確かにこう言った商売で女性が苦労するのは判りますが、どうしても慣れなくて。」
「そうだったんですか……」
これは杏癒の落ち度であった。
幾ら若いからと店を上司に調達して来いと言われて人選ミスだと責めてしまってはあまりにも可哀そうであろう。
本人も好きでやっている訳ではないのだから。
その様子を汲み取ったのか佐伯も苦笑を浮かべては言う。
「済みません、僕もうっかりしていた様です。最初からどんなお店か聞いておけばよかった物を……柴田さんにも、そして最もお店の人に御迷惑をお掛けして申し訳ありません。」
「い、いえ、大丈夫ですよ!ね?マスター?」
「……確かにこれは杏癒ちゃんのミスだね。全く、うっかり屋さんなんだから。」
「は、はは……。」
流石この業界に携わって長い所為かフォローもばっちりで、なんとか佐伯も苦笑を浮かべるだけに留まった様で胸を撫で下ろす中で呟いた。
「しかし駅前で値段も比較的安いとなると確かに薄給の僕らにとっては大喜びですね。それに若い娘が揃ってるのは年輩には嬉しいでしょうから。素敵な店を紹介して下さってありがとうございます、柴田さん。」
「い、いえ私はなんにも……でも良かったねマスター。更に繁盛確定だよ!」
「それは嬉しいなぁ」
なんて会話を繰り広げていると、ピピと杏癒の携帯が鳴り挙動不審でいては、佐伯は笑って「どうぞ」と促したので携帯を覗くと宛先に派婚約者の名前があった。
どうも、織坂一です。
まずここまで読んで色々とバッシングされる部分もありますが、まぁちゃんと繋げる為には、佐伯を「キャバクラ嫌い」にするしかなかったんです……どうかお許しを。
ここが重要ポイントになりますが、佐伯と杏癒が再会した場所もキャバクラです。
「じゃあ何で!?」というのは本当に最後に語られるのが失態でした。
ですが、ざっくりであれば後々に説明されるのでしばしお待ちを。
さて、杏癒の方で動きがありましたが一体どうなるのかは次回をお楽しみに!




