17.来る夜の前に
約束の日はそう長くもなくやってきた
あの日出会って朝食を共にしたその晩に連絡が入った。
『金曜の晩はどこで待ち合わせしますか?』
その言葉に返した言葉はこうだ。
『では、三鷹駅に午後8時頃でいいですか?』
『構いませんよ』
それだけのやり取りをして、あっと言う間に金曜日はやって来て、杏癒も珍しく朝から原稿を進めていたが、気づけばもう午後5時。
駅の近くと言えど何が起こるかは判らないと言うよりもしかしたら今夜同じ会社の人を連れてくる可能性を考えると何時もの服装では何かと問題だろうから、と久々に箪笥の上にある化粧ポーチへと手を伸ばすと同時に箪笥を開けては服を漁る。
そこまで張りきる必要は無いがせめてものの低抗ぐらいはしたかった為に下地を塗る。
普段から同居している母から「肌の最低限の手入れはしておきなさい」と言われ、毎朝毎晩の手入れはかかさなかった事もあり、下地をするだけでも随分と変わるが、元々肌が白い為肌に合うファンデーションをつけなければ肌がまるで屍蝋の様になってしまう為に必死にファンデーションを探し、髪を整え、眉を書き一応鏡を見て一安心する。
普段の様にTシャツの上に何か羽織り、Gパンで済ますのでは無く、せめてシャツを来てカーディガンを羽織り、下はお気にいりのブランドのスラックスとまぁみずほらしい恰好だけは避けられたが、きっと店の皆は驚く上に勘違いしてしまうだろうが、そこは弁明すればなんとかなるだろうと思い、時計を見ればまだ2時間の余裕はあった。
「まだ2時間はあるのかぁ……」
思わず溜息を吐いては俯く
あんな人は滅多にいないのになぁ、と心内で溜息を吐きながら。勿論恋愛観点は一切ない。
自分と同じ境遇を抱えた上で気兼ねなく話せて、あれだけ紳士的であれば誰でも友好を築きたいと思うだろう。
店が開くのは7時から。やはり今は暇を弄ぶしかないらしい。
そして今日もメールボックスに通知は無い。
「まさか……ね」
一番怖いのは相手の気持ちが自分から離れていく事。
こうとあってしまってはもう別れるしか道はないし、もし今別れたらきっと杏癒は自殺を図るだろう。
それは婚約者も知っている。
そう考えると段々気分も落ちてくる、であれば今の状態の杏癒は仕事を進めるのに最適な状態だ。
約束の時間に遅れない様にアラームをかけては静かに原稿に向かった。
どうも、織坂一です。
数話前に約束した飲み屋の紹介へと入りました。
もう物語は始まっている訳なので、どこに走るのかはまぁ不思議ですね。
自分のこの書き方からすると今現在「杏癒は佐伯の気になってるんじゃないの?」と思う方もいると思いますが、断言します。違いますね。
とりあえず今はこの2人は理解者になりかけな所ですし、では理解者で終わるかどうかはまぁ判りません。自分でもここはかなり苦戦したので。
後はこの先からどんどん杏癒と佐伯の化けの皮が剥がれていきますので、そこをどうかお楽しみに。




