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ゲッカビジン  作者: 織坂一
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12.蠢くざわめき 後編3


そして佐伯の頼んだノンアルコールカクテルが2人の元に出されたのはそれから約10分後の事だった。

ブルーハワイで出来た青いそれが何故か店のライトに照らされてまるで水族館の中の様に優しくテーブルを彩って、奥底に揺れるチェリーは優しく水面に揺れていた。


「今日は本当に有難うございました」

店を出たのは午前5時近く。

既に朝日が昇りつつある中で杏癒はぺこぺこと佐伯に頭を下げていた。だが佐伯は顔色1つ変える事なく、「いえいえ」と繰り返す。

あれから話は弾む事なく、ただ2人して無言でノンアルコールカクテルを舐めつつ、その内自然とぽつぽつと互いの仕事の愚痴が始まり、酒(精密に言えばではない)が進んだ。

その内、お開きと聞いて店から出て今に至るが、杏癒が懲りて顔を上げると、今度は佐伯が腕時計へと目を遣る。

「どうしました?」

「……いえ、このまま帰宅して支度したら確実に遅刻してしまうな、と。」

「ご、ごめんなさい!」

今ここで杏癒が謝った所で何かが変わる訳では無いし、それを知っているからこそ佐伯は「いえいえ」と答えると続けて口に出す。

「それに聞いた所柴田さんも東京郊外にお住まいなんですよね?でしたら朝食を一緒にどうですか?」

「え」

その言葉に思わず杏癒は固まった。理由は簡単だ。何せ彼には婚約者がいると言うのに、家に向かわずに他の女と朝食を摂るのは如何なものかと考えていると佐伯は言う。

「変なご心配は結構ですよ。それに関しても後々にお話しますから」

……」

やたらとこの一言に意味を含んでいる事は直感で判った。

もしかしたら、と変な期待を抱いて呼んだタクシーに乗り込んで数分の場所にある雑居ビルまで結局は着いてきてしまった。

静かなビルに入ると、そのまま屋上階まで行く。

降りてもそこにはただ小さな事務所の様な造りの部屋があるだけで、ドアノブの所には「営業中」と書かれたプレートが下げてあるだけ。後ろにいる佐伯は苦笑交じりに呟く。

「そこです。怪しい造りですけど、ちゃんとした定食屋さんですから。」

ごくり、と思わず唾を飲み込む。

ドアノブを捻りドアを開けると、50歳半ばの謂わばおばちゃんがエプロンで手を拭きながらまず一言目にこう言った。

「怪しい造りってなんだい?依ちゃん。みやちゃんが生きてた頃はここにしょっちゅう来てたのにねぇ」

「済みません、(さち)さん。つい初見の人からすればどう見ても事務所ですから。」

「……ったく、本当に憎たらしいねぇ。ほら、席は空いてるから好きなトコ座んな。」

「はい」

どうも、織坂一です。

今回は、佐伯がとうとう杏癒とどういった繋がりなのか吐く一歩手前でしたね。

しかしその理由は次で分かります。

そして次で「蠢くざわめき編」は終わり、次はエピソードと言う名の佐伯の独白が始まります。

「おい!そこまで言うのかよ!」という方には申し訳ありませんが、ここから一気に色々変わっていきます。


恐らく序盤はここまでだと思うので、エピソードまではもう暫くお待ちください

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