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プロローグ2

まだ本編は始まりません。

 お約束だろう。言いたかったから言った。ただその声はひどく掠れてしまっていたけれど。


「目が覚めてよかった。心配しました。」


 聞き覚えのない声が横からするのに気付く。横になったままゆっくりと頭だけを声に方に向ける。するとそこには見知らぬ青年がいた。


「混乱しているでしょう?話す前にまずはこれを飲みなさい。」


 そう言うといつきが起き上がるのを手伝い、温い水の入ったコップを渡す。ちょうどいい温度のそれをゆっくりと全部飲み干す。


「...ありがとうございます。」


 お礼を言いながらコップを返すと。青年は優しい笑みを浮かべた。


「ここは貴女のいた世界とは別の世界です。戻ることは無理だと思ってください。」


 綺麗な笑顔で残酷な事を言うものだ。

 トラックに轢かれて異世界転移。どこのラノベなのだろう。


「死んだはずなのに生きてる....。それだけで十分です.......。」


「まだ混乱していて気持ちがついてきてないのでしょうね。」


 いつものいつきであれば涙の一つでも流すだろう。それがないのだから青年の言う通りなのだろう。


「すみません、この世界や貴女のこれからなどを話す前に一つ謝らなければならないことがあります。眠っている間に少し記憶を見せていただきました。すみませんでした。ですが、全ては見てません。この世界に来る直前の出来事だけです。」


 記憶を見たという言葉に怒りを感じないとは言わないが介抱してもらっておいて怒ることはできなかった。免許証や保険証を見るのと同じだろうと思うことにする。


「記憶...見れるんですか?」


「それを含めて説明します。貴女は事故に遭い、おそらく向こうの世界で死んでいると思われます。この世界には貴女の魂がやってきました。その魂は私の生体人形(ドール)の中へと入り込み情報を書き換え貴女となりました。今ではその身体は遺伝子から全て貴女のものです。ですから最初、事故の傷も出てきてしまっていたのでそれを私が治しました。」


「人形....。」


「ええ、その身体は元は生きた人形でした。魂を入れると生体人形はその魂の持つ情報を読み込みその人物の身体となります。デメリットはありません。続けますね。傷を治し服を着替えさせベッドに寝かしました。すると貴女の年齢が若返っていき今の姿となりました。」


 そう言うとどこからか手鏡を取り出しいつきに向ける。

 そこには12、3歳位のころの自分がいた。


「魂は心です。おそらく貴女のこころはその年齢の頃に一部刻を止めてしまっていたのでしょう。」


 その言葉はいつきを納得させた。

 イジメられ、その果てに登校拒否となったあの頃。確かにその時に、刻を止めてしまった部分があったのだろう。

 それがこういう形で現れたということだ。


「そういえば名前を尋ねていませんでしたしこちらも名乗っていませんでしたね。私のことはネイと呼び捨てにしてくださって構いません。」


「いつきです。」


 名前を名乗る。


「この世界のことをお話ししましょう。」


 そういうとネイはこの世界のことを話し始めた。


 ミッドガルドと呼ばれる魔法の発達した世界。そこには人族のほかに獣人、魔人、エルフ、ドワーフ、がそれぞれ文明を築き暮らしている。大小さまざまな国があり、戦争状態の国も少なくはない。人族は他種族を軽視、蔑視する人間至上主義国が多く、多種族を亜人と呼び奴隷にすることもある。もちろんそういった国ばかりではなく、差別のない日本人的に見てまともと呼べる国も存在しているがその数は少ない。白人が有色人種を軽視、蔑視するのを思い出せばわかりやすいだろう。

 成人年齢は16歳で、20歳を過ぎると女性は嫁ぎ遅れと言われだす。男性の場合は何も言われないというのに。人族の国はほとんどが封建社会であり王侯貴族が支配する。複数の妻や愛人、妾を持つことも少なくなく無理やり領主に連れて行かれることが法では禁止されているものの少なくない。

 他神教であり、神の祝福されて生まれてくる子供は先天的に特別な力“ギフト”を持つ。神に祝福されていなくともギフトを持つ者もいるが祝福されたギフトはそれ以外のものと様相を異にする。しかし創造神だけは決して人に祝福を与えてはくれない。それは過去の出来事に起因し、亜人には稀に祝福を持って生まれる者もいるという。人族以外は創造神を主神としており、人族はそれ以外の髪を主神とした神殿が乱立している。



 ネイの説明を遮ることなく聞くと、疑問に思ったことをいつきは尋ねた。


「過去の出来事ってなんでしょうか。」


 少し困ったような表情を浮かべる。


「それは今はお話しできません。質問はあるでしょうがその前に貴方に起こったことをお話しさせていただきます。」


「最初、貴方が入った生体人形ドールは今の姿とは違う姿になりました。酷い傷を負った今よりも数歳年を取った姿です。ですが傷を治すと同時に今の姿となりました。」


 言われてから見ないようにしていたことを思い出す。穂積いつきは21歳の大学四年生である。12歳の小学生もしくは中学生ではない。


「魂は心といいました。その身体は心のないただの器です。心が入るとその心の通りの姿となります。そこからまた心の持ち主の元の体と同じように成長していくのです。オオカミであればオオカミの寿命や成長速度と同じように。人間ひとであれば人間ひとのように、その肉体は年を重ねていきます。それが若返ったということは貴方の心はその年齢に一度刻を止めているということに他なりません。それ自体はまあ問題はありませんしその年齢からまた成長をします。こちらの世界で生きていくのであればむしろ若返ったことはよかったと言えます。貴女は元の世界に戻ることはできません。私が貴女をこの世界で不自由なく暮らせるだけの知識と力を差し上げます。その代り私の願いを一つかなえていただきたいのです。」


 向こうで一度死んでいるのだから当然帰ることなどできない。不思議と感情的にならずに頭は冷静であった。


「願いとはなんですか?」


「それはすべて終わった時に。決して貴女の不利にはなりません。」


 願いが何かはわからない。しかし、いつきにはこの申し出を受ける以外の道は存在しなかった。知らない世界で生きていく。科学ではなく魔法の世界。常識は通用しない。


「わかりました。よろしくお願いします。」



 次の日から簡単な魔法の授業と歴史の授業が開始された。ある程度おさめるとさらに難度を増したものや新しい授業が追加されていった。授業は座学だけでなく体力づくりから始まる体術や武器の扱い方などもあった。その時は屋敷から出れるのだけれど外はまたよくわからないものが広がっており、空間が分離された場所であるとネイに教えられた。

 3年という期間でありとあらゆることをいつきは教えられた。それはとても濃密な時間であり、大変だけれども幸せな時間であったことは間違いない。

 若い頭は何でも吸収していった。それはかつてイジメられ、記憶力が低下する前のいつきであった。

 推定16歳となった日、それはいつきがこの世界に来てからちょうど丸三年経った日。ネイは願いを口にした。



 この世界はステータスがあり、それを見ることができる。生き物を殺すと経験値が入る。魔物を殺せばそれが強いほどにそれは多く入ることとなりレベルが上がる。動物でも経験値は入るもののそれは魔物と比べれば多いものではない。そう前置きしたうえでネイが告げたのは自分を殺して欲しいというものであった。














 ある時何もない空間から力を持つ者たちが生まれました。その時、最後に生まれたものは創造と破壊の力を持っていました。彼は世界を創造し、それがこの世界の始まりでした。アスガルドと呼ばれる世界、後にミッドガルドと名を変える世界がその日誕生したのです。

 空を作り、大地を作り、大気を作り、水を作りました。生命を育める世界にするとやがて神々は自身の姿を基に様々な生き物を生み出しました。そしてその生き物たちと神々はともに生きましら。そして時は流れ、神と交わり子をなす者が現れました。人と神の距離が近付きましたが、そんな中で少しずつ、欲に支配された者たちが増えて行きました。神も人もです。それでもまだ幸せな世界が広がっていました。ある日、創造と破壊の神、創造神と後に呼ばれる神が一人の娘に恋をしました。二人は愛し合いましたが、それを良しとしなかった者達がいました。創造神は特別な神でありその神が自分たち以外に寵愛を向けることが許せなかったのです。彼らは娘を惨たらしく殺してしまいました。計画的な殺人でした。遺体は(けが)され、生前とは比べる事のできないほどの姿がそこにはありました。創造神は欲深い者たちに復讐し、堕ちてしまいました。殺されずにすんだ神は全力で創造神を封印しました。そうしなければ世界を壊してしまうところだったからです

 そして神と人はともに暮らすことをやめ、神々は世界を分離させました。2度と同じことが起きないようにという配慮でした。

 アスガルドと呼ばれた世界は名をミッドガルドと変え、現在に至ります。


お読みくださりありがとうございました。


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