プロローグ
物語の序章の序章?
愛されていたと思う。両親からも姉からも、父方はどうかは知らないが母方の祖父母からも。
それでも心は貪欲に愛を求めた。足りなかった。
成長するにつれて飢餓感はどんどんと増していった。
喉が渇いて水を求めるのと同じ様に、穂積いつきは愛を求めていた。
変わらない日々が続いていく。それはきっと幸福なことだ。変わらないものなど何一つないのだから。
その日の空はいつにも増して美しく、雄大であった。この地にしては珍しい程に、いつきの心に深く残った。
それは空が好きないつきの為に、世界が最後に見せた優しさなのだろう。生まれ育った地の空ではないけれど、いつき好みの空。この世界で見る最後の空である事を彼女はまだ知らない。
夏も終わり秋が深まる。大学四年生という人生最大の岐路はどの道も険しく等しくいつきを拒絶していた。
それは、過去の出来事に起因するトラウマによる重石。
穂積いつきは他者の目に執拗なまでの怯えを見せる。全てはいじめによる心の傷に因を持つ。人間不信からくる恐怖。
十年近く経ってやっと見つめることができた傷は、現代社会を生きる上で致命的なものであった。
働いてしまえばどうという事はない。そこに行き着くことができなかった。
いっその事死んでしまいたい。けれど痛いのは嫌いであった。自分が死ねば悲しむ人がいる事を理解していたから安易な道を選ぶことはできない。
「どうしたらいいかわかんないよ....。」
涙が頬を伝う。泣きながら夜道を歩くのは中々に寒い。
人目につかないだけマシなのだろうか。5限帰りたくさんの大学生にバレない事を祈り歩く。
大通りの交差点。ここを渡ればすぐに家となる。
ふと、今何時だろうと気になり、携帯を取り出そうと鞄に視線を落とす。
もしもここで視線を落とさなければ彼女の運命はきっと、違ったものとなっていたのだろう。しかし彼女は視線を落とした。
悲鳴、息を飲む音、照らすライト、旧ブレーキの音。
不思議と痛みは感じなかった。
穂積いつきはその日の死んだ。
空はただ、悲しげに月を隠した。
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