〜イサム転職編〜
ハナターレ王国 終着駅
駅のホームで音楽が流れ始める。
きらめきを放ちながら、列車は終着駅についた。
「1番ホーム 学生列車が到着〜」車掌のアナウンスが聞こえる。
列車のドアがぷしゅっと開くと、髪で顔を隠した主人公や活発な主人公、ドS系主人公、〝ヤレヤレ系〟主人公・・・挙げればキリが無いが、様々な主人公達がホームに降り立つ。だいたいは学ランだが、エッチなハプニングを狙うのか、裸の学生もいた。
___この国には、異世界から転生された主人公が溢れていた。あまりにも多いので、駅を作り、列車で来てもらうことになっているのだ。
ハナターレ王国の勇者イサムは困っていた。
自分は魔物退治を生業としている。
今までは自分が洞窟へ出向き、自分が剣を振っていたが、最近各主人公たちがそれをやってしまう。
イサムは完全に王国のガイド役でしかなかった。
イサムは最近、その事に悩んでいた。姫は主人公を好きになるし、王様も主人公を褒めるのだ。挙げ句の果てには黒魔術協会から寝返りを求められた。
こうして、なやんでいるうちに、イサムは転職情報サイトを眺めていた。
「勇者なんてやめてやる」
イサムは転職条件をフリーワードで検索する事にした。
「楽して稼げる仕事っと・・・」
勇者業は楽ではない。諸君には分かってもらえないだろうが、勇者は命がけだ。それ故高給であるが、城に居なければならず、家賃が高い。昨年までは家賃手当が出ていたが、有能な主人公に手当を出す事になり、イサムの家賃手当は打ち切られた。さらに、勇者は武器防具を揃えなければならない。洞窟で強い武器を見つけて使ったとしても、それを維持する為に鍛冶屋に毎月通い、金を取られる。
最近は鍛冶屋も足元を見てくるのだ。特殊な形状の武器は、特殊料金だよ〜と。ふざけるなと鍛冶屋に言うと職人は、今はお前以外にもたくさん強い奴がいるんだよ自惚れるな、と言い返された。イサムは顔を真っ赤っかにしたのであった。
さて、話を戻そう。
こうしてイサムは転職サイトを基に、楽して稼げる仕事にたどり着いたのである。
「異世界への転生体験」
これも異世界転生じゃねえか、とイサムは毒づくが、楽して稼げるらしいので、職場に向かう事にした。
職場の住所へ向かう。あれ、見覚えのある場所だな。
終着駅である。
車掌がイサムを歓迎した。
「今からこの列車に乗って、異世界に行ってね」
「い、異世界に?」しまった、武器を忘れた、とイサムは思った。
「いつも、この列車からたくさんの主人公が来るだろう?逆にイサムくんにあっちの世界に行って欲しいんだ」
車掌は続ける。
「それでさ、異世界に転生しようとする奴をひとりでも多く阻止して欲しいのさ」
なるほど、そういう仕事か。
「やってやりますよ!」イサムは調子付く。ハナターレ王国には主人公はもう来なくていい!俺が阻止する!
列車に乗る。
きらめきながら走る列車は平凡中学校という場所に向かっていく。