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マギハッカーの異世界ベンチャー起業術  作者: 入出もなど
Ch.01 - 魔法ビジネスはブルーオーシャン!? マギサービスでレッツ起業!!
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挿絵(By みてみん)

 ハッカーと呼ばれる人達がいる。


 映画やドラマで主人公がコンピュータの問題やトラブルに遭遇すると、どこからともなく現れて「HAHAHA、任せておけよ兄弟(ブロ)」とか言いながらピザとコーラを片手にスゴイ勢いでキーボードを叩き始める。そして、パスワードを解析して秘密の文書を盗み見たり、相手の居場所を特定したり、魔法のような手腕であっという間に問題を解決するのだ。

 もちろんこれは物語の話であって、現実の世界でそんな事をしたら警察のお世話になるわけだけど、実はハッカーと呼ばれる存在はインターネットを探せばそこら中に存在している。ハッカーという言葉は何も映画のような違法な事をする人だけを指すのではなくて、コンピュータの達人をそう呼ぶ事もあるからだ。

 ただし、自分から「私はハッカーですよ」と名乗るのはダサい事だとされている。コンピュータを駆使して問題を解決したり、価値あるものを創りだしたり、人々からスゴイ人だと思われると、「あの人はハッカーだ」と敬意を込めて呼ばれるのだ。


 そう、僕はハッカーになりたかった。


//----


 空調が効いた明るいビルの一室、ゆったりとしたリクライニングチェアに腰掛け、コンピュータのディスプレイを睨み付けて、僕は親の仇のようにキーボードを打ち付けていた。

 ここ数日あまり寝ていない。アゴをこする度に伸びた無精ヒゲがジャリジャリと不快な音を立てるが、熱いシャワーを浴びるにはシャワールームがあまりにも遠すぎる。

 普段は天才ハッカーなんて呼ばれておだてられている人間でも、結局は手を動かさないと何も出来ないんだ。そう自嘲しつつも、手はホームポジションから離れない。


 ここしばらく携わっていた大規模な新規システムの稼働が、あと数日まで迫っていた。助っ人としてこのプロジェクトに途中参加したものの、当初はあまりの惨状に閉口したものだ。稼働まで一ヶ月を切っているにも関わらず、まともに動いている箇所を探す方が難しかった。

 どうしてこんなになるまで放っておいたんだ。思わずネットスラングが口に出てしまうほど酷かった。

 とりあえず、まだ作られていない部分をリストアップしてチケット化、まともに動かない部分をチケット化、チケット化、チケット化……。チケットとは要するに「あとでやる事」のメモだが、あまりのチケットの多さと膨大な作業時間の見積もりに、僕を巻き込んでくれた上司を思わず殴りつけるところだった。

 とにかく自動化できる部分は自動化しつつ並行してチケットを消化していくが、いかんせん数が多すぎた。おまけに、同僚達は典型的な指示待ち人間ばかりで自分からは動かない。必死にチケットを割り振っていくものの、一向に消化が進む気配はない。なぜかと聞いてみれば、わからないコードを前にウンウンうなっているだけだった。

 どうしてこんな状況になっているかといえば、甘い見積もりを元にした無茶なスケジュール、異常に高い要求、人員不足、技術力不足と、業界人に言わせればどれもこれも「あるある」と言われるほどのありふれた理由なのだが、当事者としては全く笑えない。

 スケジュールの延期を提案してみたものの、実はさんざん延ばしてもらって今の状況だったらしく、問答無用で却下された。


 この長くて短い一ヶ月、僕はほとんど寝る事もなくデスクに向かっていた。こういう状態の事を俗に「死の行軍(デスマーチ)」と呼ぶが、まさしくチームは死屍累々。ポロポロとクシの歯が欠けるように一人、また一人と病欠者や失踪者でメンバーが欠けていき、最終的には僕と山田さんだけが残った。

 なお、山田さんは定年間近の窓際社員というやつで、まったく戦力にならないのは言うまでも無い。(彼のパソコンのディスプレイにはソリティアが映っている)


 僕を突き動かすのは責任感と義務感。とてもじゃないがまともな精神状態ではなく、ギラギラと目を血走らせて、小さい頃から好きだったはずのプログラミングを苦痛と眠気を感じながらも続けていた。

 頼れる味方はデスクの上のエナジードリンクとブラックコーヒーだけ。しかしもはやカフェインの効き目はなくなりつつある。それでも、淡い期待を込めて僕は最後のエナジードリンクの缶に手を掛けた。

 画面から目を離さないままプルタブを開けると、カシュッと軽い音がする。ここ一ヶ月、聞き慣れた音だった。そのまま口を付けると、やはり味わい慣れたケミカルな液体をグビグビと音を立てながら飲み干していく。


 さあ、もう一仕事――あれ?


 そして僕はこの世を去った。享年26歳。死因、急性カフェイン中毒。


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