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『スターシューティングファイター』①

 そこは超次元世界マーモスタット。千年の封印を解き復活した魔王により、絶望の危機に瀕した世界。そんな世界を救うべく立ち上がったのは、伝説の刻印を受け継ぎし、伝承の勇者ハプスブルグ。

 彼は数々の冒険の末、仲間と共に成長し、真の勇者への道を歩んでいく。



 そして、彼は今苦戦していた。


 辺り一面、大規模な平地が続くチネッタ大平原で勇者ハプスブルグ一行は敵の大魔法使いチリドッグが放つ拡散魔法「死の粒子」に、手も足も出せないでいた。

「さあ勇者ハプスブルグよ……。我が魔法にどう立ち向かう?」


 チリドッグの魔法の範囲から遠く離れた場所で一行は作戦を練っている。


「どうするの、ハプスブルグ?」

 勇者の仲間の女エルフサティが訊ねる。

 その美貌は「マーモスタット三大美女」に名を連ねる程であり、昔から、それこそ何の力も持たない駆け出し勇者の少年だった頃から知っているハプスブルグに今では完全に惚れていて、いつでも、何なら今すぐにでも抱いて欲しいし、いつその時が来ても良い様に己を磨き準備しているのだが、質実剛健で無骨を絵に描いた様に鈍感な勇者のハプスブルグはその想いに一切気がつかない。

 真面目過ぎて、遊びを知らない。それもまた女エルフサティが昔から知っているハプスブルグの特徴であった。

 先日の炎獄騎士ヤキカレー戦で見せた柔軟な対応に、少し大人になったかと思ったが、性格的な部分は何も変わっていなかった。


 そんなハプスブルグラブの女エルフサティの問いに勇者は答える。


「確かにあの縦横無尽に降り注ぐ死の粒子は厄介だな」

 大魔法使いチリドッグはチネッタ大平原との土地契約を交わしており、死の粒子の魔法は魔力が枯渇する事なく無限に使える。

 消耗戦になったら確実にこちらが不利だった。

 魔法そのものに対して、何とか策を考えなくてはならない。

「ジャスコ、あの粒子は本当に一切の防御は通じないのか?」

 大平原に今なお、所狭しと放射状に降り注がれている光の粒を見つめ、ハプスブルグは女魔法使いジャスコに訊ねる。

 生まれ持った強大な魔力を人々に恐れられ、魔女狩りの標的とされ拷問を受け、火あぶりで処刑される寸前に颯爽と命を救われてから、ジャスコは身も心もハプスブルグに捧げてきた。少女のあどけなさが残る可愛らしい顔に、ミスマッチな豊満な胸を武器にいつもハプスブルグに迫っているのだが、やはり鈍感な勇者には通じる訳もなく(目の前で全裸になって水浴びをしてV字開脚をしながら親指を噛み頬を赤らませ潤んだ瞳で見上げても、勇者は何の反応も示さなかった)、女エルフのサティ同様、いつも空回りしていた。


 そんな童顔巨乳女魔法使いジャスコがハプスブルグの質問に答える。


「はい、その通りです。あれは最上最大級の死の魔法です。一切の物理的、魔法的防御も通じません。盾や兜を装備していても無駄です。装備の上からだろうが、ほんの少しでもあの粒子に触れれば、無慈悲にその者を死に至らしめます」

「そうか……」

 装備も無駄。

 当たれば必ず死ぬ。

 女魔法使いジャスコの口から伝えられるその残酷な効果に、場に暗い空気が流れる。 

「つまり、想像樹の内部に入るには、あの粒子を全て避けていかなければならない訳だな……」

「……ねえハプスブルグ。もう想像樹へと入るのは諦めない?」

 女エルフサティが思い切ってそう提案する。


 広大なチネッタ大平原の中心にそびえる巨大な神木「想像樹」の前に大魔法使いチリドッグは立っている。

 そこには障害物は何もない。

 何かに隠れて移動する事は出来ない。

 そんな中、永遠に放たれ続ける死の粒子を掻い潜って先へ進むのは至難の業であった。

 その難易度から、女エルフサティの言う様に、諦めるという選択肢が生まれるのも当然だろう。

 

 だが、その意見は小さな呟きによって否定された。

「諦めるのはダメ……アイテムは必要」

 女召喚士マイカルである。

 天才召喚士として幼少の頃から王宮に召し抱えられていたマイカル。眼鏡で華奢でスマートな体型の彼女はパーティーの中でも一番の年下だが、そのクールで常に冷静に物事を判断する性格からハプスブルグに信頼されていた。どんな状況でも表情の変化が全くなく、サティやジャスコと比べてハプスブルグに一切興味がない様に見えるが実際はそうではなく、実は彼女が一番ハプスブルグの事を愛していた。だが、その愛というのも、昔からの仲だとか命を救われた等といった陳腐な理由ではなく、ハプスブルグがど真ん中ストレートのタイプであり、只々顔が好きなのだ。

 女召喚士マイカルはハプスブルグが勇者でなくても今と変わらぬ程好きである絶大の自信がある。ハプスブルグが農夫でも、無職でも、ろくでなしの人殺しのクソ野郎でも、絶対に、百パーセント好きになっていた。いやむしろ女召喚士マイカルの嗜好からすると人殺しのクソ野郎であった方がより最高だったのだが、それはいくらなんでも高望みが過ぎるというものである。

 なので、勇者という前提ありきでハプスブルグが好きな不純な理由のサティとジャスコには内心はらわたが煮えくり返っていて早く死んで欲しいと思っているのであった。

 そんな彼女は毎晩ハプスブルグのベッドに全裸でこっそりと忍び込んで全身を擦りつけて刺激しているのだが、彼は絶対に起きない。まるでリトルチェアボーイ(異世界でいう小学四年生男児)だと思ってしまうくらい起きない。だがマイカルはそれでも構わない。ハプスブルグの傍にいられるだけで最高にエクスタシーを感じられるからだ。


 そんなクール眼鏡変態女召喚士マイカルがサティに反論した。


「『想像樹の冠』は……大事」

 想像樹内部でしか手に入れる事の出来ない装備「想像樹の冠」。それはこれからの冒険に必ず必要なアイテムだった。

 女召喚士マイカルの肩に乗った召喚獣の子ドラゴンも賛成する様に小さな雄叫びをあげる。


「フハハハハハ! 無限に放たれる死の粒子を掻い潜って、想像樹へと近づく事が出来るかな!!」

 大魔法使いチリドッグは自らの魔法に手も足も出せない勇者一行を愉快そうに口を歪めながら眺め、挑発する。


「くそ、どうすればよいのだ」

 防御が効かない。当たると終わるのだ。

 遮蔽物のないこの大平原を、嵐の様な死の粒子を掻い潜っていくしかないのだろうか。

 そんな事は――自殺行為だ。

 愚か者のする事である。

 いくら考えても何の策も浮かばない。


 ハプスブルグ達が絶望に打ちひしがれた、その時。

 空中から光り輝く小さな少女が舞い降りた。

「サタディ……」

 それは時と次元の精霊サタディであった。


 そして、直ぐに先日と同じ現象が起こる。


 ハプスブルグ以外の周りの時が止まったのだ。


「またか……。となると、行くのか?」

「その通りです」

 ハプスブルグの呟きに、サタディはニコニコしながら頷く。

「参りましょう。賢者の下へ……」


 そしてサタディはハプスブルグの周囲を廻り始めた。

 ハプスブルグの視界がゆっくりと歪んでいく。


 次元の扉が――開かれた。

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