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『超守雄列伝』⑥

 気がつくとハプスブルグは炎獄橋の上にいた。

 目の前に待ち構えているのは炎獄騎士ヤキカレー。


「…………帰ってきたのか」


 どうやらあれから時間は全く過ぎていない様だ。

 異世界に行っている間、マーモスタットの時間は止まったままらしい。

「それでは勇者様、また来週ー」

 時と次元の精霊サタディがニコニコしながら飛び去っていった。

 ハプスブルグはそれを見送り、仲間達を振り返った。


「皆、私に考えがある。聞いてくれ」


 ハプスブルグが作戦を伝えると、皆は驚いた様に勇者の顔を見た。


「ハプスブルグ……あんたがそんな作戦を思いつくなんてね」

「素晴らしいですハプスブルグ様!」

「ハプス……賢い」

 女エルフサティ、女魔法使いジャスコ、女召喚士マイカルの順に勇者を称える。


「よし、では機会を見る。私の合図を待て」

「うん」

「はい」

「……ああ」

 橋の欄干に隠れ、ハプスブルグはヤキカレーの様子を窺う。

 集中して、炎獄騎士の一挙手一投足に注意を払う。


――あの、長い修行を思い出せ。


 そして、長い膠着状態の中、ヤキカレーの集中力が途切れたその一瞬を――ハプスブルグは見逃さなかった。

「今だ!」

 ハプスブルグが合図を出すと、全員が同時に動き出した。


 ヤキカレーに向かって一直線である。


――橋の上で、こちらの攻撃は躱される。

――魔力も尽き、地の利を奪われた。

――勝つのは無理だ。絶対に不可能だ。


 そう思った。


 だが、そうではなかった。


 あれは一体どこだったのか。

 別次元、多分異世界だったのだろう。

 ハプスブルグはあの場所で教わった。

 言葉は通じなくとも「げえむ」を通して学んだのだ。

「げえむ」の祠に住まう、賢者に。


――無理ではない。無理ではないぞ、勇者ハプスブルグよ……。


 そう、言われた気がした。


 条件に恵まれていなくても、最善でなくとも、術はあるのだ。



 猛ダッシュしてくる勇者一行を見て、炎獄騎士ヤキカレーは鼻で笑う。

「ふん、全員で捨身で攻撃してくるつもりか。愚か者共め」

 その攻撃は想定していた。

 一番愚かで、一番単純な方法である。

 どれだけ人数がいようが、結局は橋が狭いので一対一になる。先頭の者が邪魔になって後方の者は攻撃する事も出来ない。

 逆にこちらは何も考えなくていい。的が広くなったというものである。がむしゃらに攻撃すれば誰かに当たるだろう。固まって行動してくれるとは、大助かりである。


「喰らえ!!」

 ヤキカレーは先頭を走る勇者に、火球の魔法を放つ。


 それを待ち構えていたかのように、勇者ハプスブルグは大きくジャンプして――炎獄騎士ヤキカレーを飛び越えた。


「何!?」


 後ろから攻撃されるかと身構える炎獄騎士。だが、そうではなかった。

 そのままハプスブルグは振り返る事なく駆け抜けて行った。

 ヤキカレーの胸中に衝撃が走る。

 

「まさか、逃げるのか!」

 その動揺の隙をついて、他のメンバーが炎獄騎士ヤキカレーの脇を掻い潜る。そして勇者と同じく、そのまま振り返る事なく走り抜けた。


「待て!」

 追うヤキカレー。

 遥か先へと行った勇者の行動を見て驚いた。


 そこでは橋の向こう岸まで辿り着いたハプスブルグが聖剣を大きく構えていた。

 彼の持つ聖剣カイザルブレイドに光の粒子が集まり、雷の紋章が浮かび上がる。

 勇者の必殺剣「エスティマティックゴールドギガントブライダルブレイド」である。


「なるほど……。そういう事か」

 ヤキカレーは勇者の狙いに気が付いた。


 彼は橋を落とす気なのだ。


 ヤキカレーは素直に感心した。

 勇者が眼前の敵である自分の遥か先を見据えていた事に。

 思考の一手先を読まれたとはまさにこの事である。 


「この勝負、地の利を俺が得た時点で勝っていた。そう、この場で、この状況で戦うのならな。つまり勝負であって勝負でなかったのだ。焦れば焦るだけ、お前達は俺を倒す事に躍起になった。こちらの思う壺だ。だが、この『勝負にならない状況』ごとひっくり返すとはな……。勇者よ、見事だ。聡明で柔軟な頭も持ち合わせていたのだな。その可能性をお前に微塵も感じていなかった、俺の読み負けだ」

「………………」

 ハプスブルグはヤキカレーに対して何も答えず、ただ人差し指で頭をトントンと叩いて笑うだけだった。


 まさか、あの良くも悪くも生真面目で質実剛健な勇者ハプスブルグが、この緊迫した状況下でこんな策を考えつくとは……。

 完敗だった。

 

「さあ勇者よ!橋を落とせ」

 観念するヤキカレー。


「…………」

 だが、ハプスブルグは橋を斬ろうとしない。

 剣を下ろし、光の粒子も霧散した。

「どうした?何故落とさん!」

 その問いに勇者は真面目な顔で答える。

「貴殿が今言ったのだぞ」

「?」

「『勝負にならない状況をひっくり返した』とな」

「……それが、どうした?」

 何を言っているのか分からないヤキカレーに、勇者ははっきりと言い放つ。


「だから、ようやくこれで『勝負になる』のだ。貴殿と、正々堂々と斬り合う事が出来る」

「……お主」


「何よハプスブルグ。ちょっとは頭を使う様になったかと思ったら、結局はいつも通りじゃない」

「流石はハプスブルグ様。勇者の鏡です!」

「ハプス……素敵」

 勇者の仲間三人も、肩を竦めたり手を組んで称えたり、眼鏡をクイっと上げたりと、各々反応を示す。共通するのは、皆、勇者を誇りに思っているという事であった。


――これが、勇者。


 真剣勝負をしても絶対に敵わない事は、炎獄騎士ヤキカレーも承知していた。

 それ故の策だったのだ。だが、それも完全に破られた。

 橋を落とされて死のうが斬りあって倒れようが、負けは負け。結果は同じである。

 いや、勇者は今ここで橋を落としてしまえば戦う事なく、勝利出来るのだ。

 先ほどまでの自分と同様に……。


 だが、敢えて炎獄騎士ヤキカレーに、騎士としての最期を選ばせてくれた。

 全ては、ヤキカレーの為である。 


 炎獄騎士ヤキカレーはその心遣いに思わず涙が零れそうになったが、グッと堪えた。


――あんなに勇敢で立派な勇者の前で涙を見せたら、笑われてしまう。


 ヤキカレーは橋を揺らしていた魔法を解除する。

「……これで、平地での戦いと同等だ」


「では、炎獄騎士ヤキカレー殿。勝負」

「行くぞ!」


 叫び声をあげながら炎獄騎士は走り、勇者に向かって気合いを込めて剣を振り下ろす。

 だが、下から振り上げられた聖剣カイザルブレイドに弾き飛ばされ、剣は橋の下の炎の中へと沈んでいった。

 そのまま肩から斜めに斬られるヤキカレー。

 その一閃で、勝負は決した。


「見事だ……勇者……ハプスブルグ……」

 満足そうな表情を浮かべた炎獄騎士ヤキカレーの身体はゆっくりと傾き、そのまま炎獄運河ファルネーゼへと落ちて行った。 

 


 そして、勇者一行の前には先へと進む道が開かれる。

「よし、先を急ごう」

「流石ねハプスブルグ。というか何だか一気に成長したみたい」

 不思議そうに首を傾げる女エルフのサティに、ハプスブルグは答える。

「ああ、これも全て『げえむ』のお陰だ!」

「『げえむ』?」

「ああ、異世界の『げえむ』というものは、凄いものだな」

「?」

 突然、今まで一度も聞いた事のない言葉を言い出した勇者に、三人の女達はお互いに顔を見合わせて、肩を竦める事しか出来なかった。

 

――賢者よ。ありがとうございました。貴方のおかげでこの危機を乗り越える事が出来ました。

 

 勇者ハプスブルグは天を仰ぎ、次元を越えた祠に住まう『げえむ』を司る賢者に、深く礼を述べるのであった。

超守雄列伝(ちょうもりおれつでん)


守雄は「森野守雄」という名前で職業は木こりである。まさかりは商売道具なのだ。

敵のビビンバ大将軍率いる残飯モンスター軍団は、人間の食べ残しの怨念が具現化した、まさに飽食の時代の負の遺産。人間の業が生み出した罪深き存在なのだ。

その事実を国民に何としてでも隠し通したい日本政府からの依頼で、ヤツらを抹消する様に言われた守雄は(TPP関連に於いて、林業の莫大なる利権を交換条件に守雄は引き受けた)化物退治に躍り出た!


角刈りに捻りハチマキ、腹巻きにふんどしを装備した中年男性という馴染みやすく親しみやすいそのビジュアルから、人気は国内に留まらず、全世界に広がった超有名タイトルである。

シリーズに『超守雄大陸』『超守雄の世界』『超守雄の宴』『超守雄物語』『超守雄リヤカー競争』『超守雄VS逆転裁判』等がある。


ちなみに、守雄に兄弟はいない。

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