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『スターシューティングファイター』③

 画面の中には、とんでもない弾幕が飛び交うシューティングゲーム『スターシューティングファイター』が映し出されていた。

 ピチュンと、みつるの自機が爆発する。

「あ……」

 みつるは思わず声を出した。

 勇者はやはりゲームを凝視している。

 これは、先週と同じ状況であった。

――ひょっとして……。

 みつるの頭に一つの可能性が浮かぶ。


「え……と。やりたいの?」

 恐る恐るコントローラーと画面を指差すと、勇者はみつるの方を向き、熱心に何度も頷いた。

 その勢いに、みつるは思わず吹き出してしまう。

「いやあ、まったく。ゲーム好きな勇者だな。まあ、いいけど。やってみなよ」

 みつるは先週同様、素直にコントローラーを渡した。


「■■■■!」

 その時、意味は分からないが何となく「ひゃっほう」的なテンションの言葉を勇者が放った様に、みつるには思えた。

「へへ……小学四年生かよ」

 みつるは苦笑いを浮かべるが、嬉しそうにゲームに向かう勇者の態度を見て、やはり嫌な気はしない。


 コントローラーを丁寧に触りながら、勇者は微かな笑顔を浮かべる。

 一週間ぶり。再び得たその不思議な感覚に勇者は小さく震えている様だった。

 まるで、親が厳しくてゲームを買ってくれないから友達の家に入り浸る子供の反応である。


 そして、シューティングゲーム『スターシューティングファイター』がスタートした。

 戦闘機が縦スクロールの画面の下から颯爽と現れる。

「■■!」

 勇者は驚いた様に声を上げ、十字キーを動かしてみる。

 すると、自機が思う通りに動く。

 勇者はうんうんと満足そうに頷いた。

 瞬時に操作性を理解したようだ。


 そして続いて、Aボタンを押すと、自機からピュンと前方に向かって弾が放たれた。

「!!!!」


 次の瞬間、勇者は目が飛び出しそうな程の勢いで驚き、直ぐにみつるを見つめた。

「え、何!?どうしたの?前を見ないと危ないよ……」

 そうみつるが注意した次の瞬間、突っ込んできた敵の戦闘機と接触して、勇者の自機は爆発した


「■■■■!!」

「あーあ、死んじゃった……あ」


――この展開は……もしや。


 みつるはそこでとても嫌な予感を覚えた。

 先週、勇者はゲームで失敗する度に腰に佩いている聖剣を抜いて暴れ出したのだ。

 ひょっとしたらまたあのパターンになるかもしれない。

 みつるは勇者の挙動を注意深く観察し、身構えた。


「……■■■■」

 だが、勇者は何事かブツブツと呟いているだけで、剣を抜く様子は愚か、暴れる気配もない。


――暴れないのか?


 みつるはホッと息を吐いた。

 ひょっとしたら先週の件で懲りたのかもしれない。

 異世界に突然現れて、そこの住人の家を怒って壊すなど、無礼にも程がある。

 当然こちらの世界と文化の差はあるだろうが、勇者の住む世界がそこまで野蛮な世界ではないだろう。でないとみつるの様な豚と変わらない畜生等、モンスターと間違えられてとっくに殺されているに違いなかった。

「……■■■■■」

 彼が今何かブツブツ呟いているのは、きっと今の自分のプレイを反省しているのだろう。

 随分と冷静である。素晴らしい。

 自己分析まで出来る様になったら上達はすぐである。


――うんうん、良いぞ良いぞ。

 うんうんとみつるが感心して頷いていると、部屋が急にパッと明るくなった。

「ん? どうした……え? 何これ?」

 そこでみつるは目を疑った。

 なんと、ブツブツと呟いている勇者の掌から赤い炎が発生しているのだ。

 それは勇者が言葉を重ねる毎に呼応され、どんどん大きくなっていき、あっという間にバレーボールぐらいの大きさまで膨れ上がっていった。

「ちょ……ちょっと、何してんの。それ……何だよ」

「……■■■■■■」

 勇者はその火球を手に掲げ、画面を睨みつけている。今にもテレビに向かって放とうとする勢いである。

 そこでみつるは冷静に、ある事実を理解した。


――こいつは、一切前回の事を反省していないッッッ!!!


「待て! 待て待て待て!! 待て!!!」

 みつるは慌てて叫ぶ。

「何勝手に火属性魔法を放とうとしてんだよ!! 魔法は勘弁してくれ!!」

 魔法も使える勇者だったとは。みつるは油断していた。

 何故なら先週はそんな素振りを見せなかったからである。必殺技は見たが。

 先週は、勇者の魔力が切れていたのだが、そんな事情を当然みつるは知らないので、仕方がなかった。

 怒り猛った勇者の魔法が、画面に放たれそうになる。

「だから待てって! そんなのぶっ放したらゲームが壊れちまうよ!」

 そう言ってみつるは両手を広げて勇者の前に立ち塞がった。

「…………!」

 驚いた表情で勇者はみつるを見る。

 そこでようやく瞳に冷静さが浮かんだ。


 だが、みつるが前に飛び出した時、いつの間にかみつるに飛び火していた様で、服が燃えていた。

 みつるは泣きながら悲鳴を上げた。

「アチアチアチアチチチチチチ!!! 熱い熱い!!!! ひいいいいいいいい!! 死んじゃうよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 慌てて床を転げ回るみつる。

 勇者もマントを外して床のみつるをバンバンと叩いてくれる。


「はあはあはあはあ…………」

 そして、何とか炎は消し止められた。 

「はあ、死ぬかと思った。おいおい、これ服燃えちゃったよ。一体どうすんだよ……って、あれ? 燃えてない?」


 そう、服は燃えていなかった。

「あれだけ熱かったのに……なんだよこの魔法」


 だが、代わりにみつるはその時、ほんの少し頭が重い様な、魂を吸いとられたような嫌な感覚を覚えた。


――これは、体力を奪われたのかもしれない。ひょっとしたらエナジードレインか。


 みつるは異世界魔法の不思議に触れ、ゾッとした。

 そんな訳の分からない魔法の前に飛び出すなんて

、自分で自分の行動が信じられなかった。


 みつるの思いはただ一つ。

 ゲームを壊されるのだけは嫌だったのだ。

 何故なら、ゲームがなければ家で何もする事がなくなるから。

 働かなくてはならないではないか。

 みつるはそれだけは勘弁だったのだ。

 冗談でも何でもなく、働くくらいなら死んだ方がマシだった。

 そんなみつるの揺るぎない信念が、彼を勇敢な行動に駆り立てたのだ。


 みつるの捨身の抵抗で勇者も我に返り、手のひらの火球を霧散させる事が出来た。

 今なお、少々の気だるさがみつるを襲っているが、徐々に落ち着くだろうと、タカをくくる。

 とにかくゲームを守れて良かった。


 だが、ホッとしたのもつかの間。今度は勇者がみつるを責める様に見つめて、喚き立ててくる。

「■■■■!  ■■■■!」

「え?何?何言ってんの?何で俺に切れてんだよ?逆じゃない?」

 みつるは訳が分からない。

 体格の良い銀髪碧眼?の勇者にガミガミ責め立てられて既に泣きそうになっていた。

「■■■■! ■■■■!」

「いや、だから……何言ってんだか……」

「■■■■! ■■■■!」

 訳が分からないみつるの目をしっかりと見て、勇者はAボタンを指差しながら、ピョンピョンと飛び跳ねてみせる。


「ああ……そういう事か」

 それでみつるは彼が何を言いたいのかようやく理解した。


 勇者はみつるに「このボタンを押してもジャンプしないではないか」と怒っているのだ。


「……そのボタンはジャンプじゃないんだよ。先週とはゲームが違うからね」

「■■?」

 そもそもあの場面で戦闘機がジャンプした所でどうしようもないのだが、勇者にとっては想像していた事が起こらずに違和感を覚えた様だ。随分と融通の利かない勇者である。


「えーと、コントローラーの操作はゲームによって違うんだ」

 みつるは先週の守雄のソフトを見せながら、そう言う。

「あんたも武器によって戦い方が変わるでしょ? 剣なら『斬る』けど槍なら『突く』。同じボタンでも、ソフトによって違うってこと。分かるかな?」

 まあ、どれだけ言っても言葉では限界がある。

 よく理解出来ていないであろう勇者の隣に座ると、みつるは操作を教え始めた。

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