電車 2
ガタンゴトンガタンゴトン
運転者の乗っていない電車は同じ速度でどこかに向かっている。
ガタンゴトンガタンゴトン。
彼方一人を乗せて。
(これは夢だ。本当は、電車の中で寝てましたっていうオチだ。)
自分で言い聞かせながら二両目に戻り、最初と同じ座席に座った。
「早く目を覚ませ、おれ。絶対乗り過ごしてるぞ。」
彼方は頭を抱え込みながらぼそりとつぶやいた。
頭痛がひどくなっている。
鼓動が早くて、息切れがする。
視点がさだまらない。
怖い。
なにもわからない。
これが現実なんだということなど頭痛がしている時点でわかっていた。
ただ、現実逃避をしなければ頭がおかしくなってしまうような恐怖感が彼方の中でうずまいていた。
「いや、もう頭おかしくなってるかな・・・」
「いや、そんなことはないぞ。」
「・・・は?」
彼方は顔をあげた。
小さくて聞きずらいが彼方以外の声が聞こえる。
しかし、周りをみわたしてみても誰もいない。
「マジで、幻聴が聞こえるなんて、ほんとにおかしくなっちまってる。」
彼方はまた頭をかかえた。
「だから、そんなことはないって言ってるだろ!」
「やっぱ、誰かいるのか?どこにいるんだ?」
彼方は立ち上がって周りをもう一度見渡す。
だがまったく車内もなにも変わらない。
「お前の隣だ。」
「隣?だれもいないぞ。」
彼方の隣には床に置いてあるスポーツバッグだけ。
それ以外なにもない。
「はやくカバンをあけてくれよ。いい加減、息が苦しい。」
「なっ・・・」
よく聞いてみれば、確かにカバンの中から声が聞こえる。
だが、この普通ではない電車に、人が入れる大きさではないスポーツバッグから聞こえる声。
彼方は尻込みしていた。
(開けるべきか・・・?だけど絶対普通のものじゃない。)
「何してんだ。早く開けてくれよ。」
ゴクリ。
息をのみ、彼方はゆっくりスポーツバッグのチャックに手を伸ばす。
(どうにでもなれっ!)
目をとじて一気にチャックを開けた。






