黒き猫
高和高校を少し北に行ったところに高和美術館がある。
歴史的な美術品が好きであった母親に付き合って小さい頃から多くの美術館の展覧会に訪れていたためか、彼方は高校の授業の中でも日本史が得意であった。
今回は明治期の日本画家 菱田春草の日本画の展覧会であった。
「寡婦と孤児」「王昭君」など近代日本画の発展に尽くした菱田春草の有名な画が展示してある。
「これ・・・。」
彼方は菱田作の日本画をゆっくりと見回っていたが、とある一枚の画の前で立ち止まった。
その画は木の枝に居る黒い猫を描いたものであった。
画でありながらその黒い猫の毛並はよさそうで、こちらを感情の見えない表情でじっと見つめている。
なぜか目をそらせない。
この猫は自分の何かを見透かしているような。
何か自分に語りかけているような。
「にゃあ。」
「えっ!?」
彼方はとっさに目をこすり、もう一度よく画を見るが、なにも変わった様子はなかった。
(さっき、一瞬猫の口が開いて鳴いたような・・・。)
だがいくら見つめても、猫はピクリとも動かない。
(当たり前だよなぁ。今日、頭使いすぎておかしくなったのかな)
彼方は頭を掻きながらその場を後にした。
その背中を画の中の猫がじっと見つめていることにも気が付かずに・・・。