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遥か彼方  作者: asuru...
3/7

進路


(何も言えなかった・・・。)


彼方は、古典文学を読み上げる先生の声を上の空で聞きながら、通学時に明石と話したことを思い出していた。


なんと答えればよかったのだろうか。

彼方自身進路を決めていないのに、明石の進路に意見できない。

だからと言って、せっかく話してくれた明石になにも言えなかったことが情けなかった。


キーンコーンカーンコーン


「じゃあ、今日はここまで。今日やった文法は重要だからなー、覚えておけよ。」

「起立、礼。」


先生の終わりの言葉で、クラス委員長が号令をかける。


「「ありがとうございました。」」


生徒全員が礼をした後、皆さっさと昼食を食べに行く。

今は四限目が終わった、昼休み。


(トミーのとこ行かなくちゃな・・・。)


彼方はいつも一緒に昼食を食べているクラスメイトに断りを入れ、自分の教室を出た。


いつも通り騒がしい廊下。

三年生の教室は一年と二年とは違う棟にある。

おそらく、三年生の授業に支障を出さないためだろう。

高和高校は部活に力を入れているが、学力にも力を入れていることで有名である。

スポーツ推薦で入学した生徒の多くは、卒業後も各々スポーツの世界で名を馳せているし、学力で入学した生徒は、卒業後有名大学に進学し、有名企業に就職しているものが多い。

ただ、やはりどこかでつまずいた生徒も多く、その生徒のほとんどがこの高校の卒業式に出席することはない。

彼方の周りにもそういう生徒はいた。


だから、明石のような大学のスポーツ推薦をもらったことなど、この高和高校ではよくあることだし、ありがたいことである。

高校の部活が楽しくて、大学で剣道をするのが怖いなどというのは、わがままなのかもしれない。


(だけど、やっぱりすごくその気持ちはわかる。)


スポーツ推薦で大学に入ってそれからどうするのだろうか。

ずっと剣道をするのだろうか。

それでよいのだろうか。


そんなことを考えていると職員室に着いた。


「失礼します。富田先生いらっしゃいますか。」


彼方は職員室の扉を開け、入り口付近で少し声を大きくしていった。


「朝霧、応接室いくぞ。」


少し入り口から離れたところにあるデスクの椅子から立ち上がって富田先生は応接室がある方を指さした。


職員室の隣にある応接室は少し狭いが、椅子はいいもののようで、すわり心地がよさそうだった。


「朝霧、隣座れ。」


入り口付近の椅子に座った富田先生は隣の椅子をポンポンと叩いた。

彼方はうなずき、指定された椅子に座ったのを見ると先生は口を開いた。


「あのな、もう誰かから聞いてるかもしれないが、お前にもスポーツ推薦が来てる。

お前がほしいっていう大学は相当あってな、こんなに推薦が一人の生徒にきてるのはこの高校が建って初めてのことらしい。だけどお前は、勉強もできる方だから、受験するのもアリなんだわ。」

「・・・ほかの奴はどうするって言ってるんですか。」


彼方は先生をまっすぐ見ながら聞いた。


「まぁ、あんまり勉強ができる方とはいえねぇ但馬や青木はスポーツ推薦を受けるって言ってる。だけど、御影は勉強できる奴だし、やりてぇことを持ってるやつだからな、受験するってよ。」


富田先生ははっきりといった。

先生として他の生徒の名前を挙げて言っていいのかと思うが、こういうはっきりとしたところが生徒に好かれている。

それに、但馬と青木はいつもテストで赤点ぎりぎりで周りを困らせていたため、剣道部であの二人の頭の悪さを知らないものはいない。

御影は剣道部をまとめる部長で、頭がよく、スポーツ推薦で入学したものの、いつも成績では上位に食い込んでいるのもまた周知の事実だ。

この三人は他の生徒に自分の進路をばらされてもまったく気にしない性格であることをわかっていて、富田先生はいったのだろう。


「朝霧、お前は受験でもスポーツ推薦でもこれからの大学生活でやっていけるだろうよ。一回、おふくろさんとよく相談して決めろ。」

「はい。」

「よし、クラスに戻っていいぞ。」


富田先生はそう言って椅子から立ち上がった。


「ありがとうございました。」


応接室からでて、彼方は教室に戻る前に富田先生に礼を言った。


「朝霧、お前が行きたい方にいけばいいんだぞ。よく考えりゃいいんだからな。」


富田先生は彼方にそう声をかけて職員室に戻っていった。




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