推薦
ランニングを終えた彼方は、次は高校に行くため用意をして、家を出た。
ウォークマンで音楽を聴きながら自分の通っている高校の最寄駅を降り、通学路を歩いていると、後ろから誰かに肩をたたかれた。
「よっ。」
「おはよう、明石。」
振り返れば、人懐っこそうな笑みを浮かべた剣道部のチームメイト、明石 俊だった。
明るい性格で部でもムードメイカーだった明石は、彼方にとっても気の置けない友人である。
「珍しいな、明石とこんな時間に会うなんて。」
「うわ、なんだそれ。俺がいつも遅刻ぎりぎりに学校行ってるみたいに言うなよ。」
「ほんとのことだろ。」
「ひでぇ」と彼方のからかいに笑いながら答えた明石は、きゅうに真面目な顔つきになった。
「朝霧、トミーが今日の放課後、職員室に来いってさ。」
「え?おれ?」
明石の急な話に彼方は驚きながら返事をした。
トミーとは剣道部の顧問 富田先生のあだ名である。
彼方と明石が通う高和高校は私立高校で、運動部に力を入れている学校である。
運動部の多くの生徒がスポーツ推薦で入学していて、彼方と明石もスポーツ推薦だ。
そのため、多くの運動部が強豪として知られている。
中でも富田先生率いる剣道部は何度も全国大会で優勝している。
そんな富田先生は厳しいところはあるが、明るくユーモアがあり、生徒思いで人気のある先生だ。
剣道部の部員からも慕われている。
「昨日、俺、職員室に呼ばれてさ、俺にスポーツ推薦きてるらしくって、どうするかよく考えとけっていわれてさ。」
「すげぇじゃん。で、スポーツ推薦うけんの?」
「・・・俺、大学でも剣道できっかな。」
「え?」
明石のつぶやきにも近いような一言に彼方は目を見開いた。
「俺、高校の剣道部楽しすぎてさ。正直これ以上楽しめるきがしねぇんだ。他の奴はどうすんのかなって・・・。」
「明石・・・。」
そういって切なそうに笑う明石を見て、彼方は思わず目を伏せた。
「俺らの代の剣道部員に結構推薦きてるらしくてさ。俺に来てんなら絶対、彼方にもきてるはずだし。どうすんのかなって・・・。」