序章 思慕
初めての投稿です。
朝霧彼方は目覚ましのけたたましい音で目がさめた。
午前5時
まだ町は静まりかえっている。
秋に近づいているこの時期の朝はやや肌寒い。
彼方は布団から気だるげにでてパジャマ替わりの部屋着を脱ぎ、ジャージに着替えた。
そして静かに一階へとおり、小学生の高学年から毎日続けているランニングのため外に出た。
ただ走る。
いつも走っているコースを。
ただ無心で走り続ける。
小さい頃からしていた剣道のためのランニングは高校の剣道部を引退してからも続けていた。
長年走り続けたコースは年々少しづつ姿を変えていく。
空き地だった場所に家が建ち、古い屋敷は公園に姿を変えた。
それは生き物も同じ。
人が前を通るたびに吠えていた、平屋に飼われていた柴犬は彼方が小学6年生の時に死んだ。
小さな家に住んでいた老夫婦はいなくなり、そこには新婚の若い夫婦が住んでいる。
どの建物も生き物も年を重ねるうちに少しづつ変わっていく。
だが、一か所だけまったく変わっていないと彼方が感じる場所がある。
❘❘繫縷神社❘❘
二十三段の階段を上ると静かにそびえたつ鳥居。
奥には古びた御神体が祭られている本殿。
境内にそびえたつ大きな菩提樹。
彼方は小さい頃から町の端っこにあるこの神社に必ず訪れるようにしていた。
ある一つの小さな希望を胸に。