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『プー、プー、プー、プー……』 耳元で鳴っている携帯電話の音にようやく気がついた
『じゃあ、そういうことだから……』最後に由美子が言った言葉を思いだした。
(って、どういうことだよ)
由美子からの電話の内容を振り返ってみる。
『ねえ、光二……、私たち……、別れましょう……』
その先彼女は色々と理由を言っていたようだったが、最後の言葉しか思い出せない。
(ふざけるな! そっちがどうしても付き合ってくれって、泣いて頼んできたんじゃないか! 俺は本当はマキを狙ってたんだ。それをお前が割り込んできて……)
俺は携帯電話を放り投げると、座っていたベッドにごろりと寝転んだ。
目覚まし時計の秒針の音が聞こえる。
日が落ちてきて、部屋の中は薄暗い。
(晩飯どうしようかな……)
ちょうど彼女を食事に誘おうとしていた矢先に、向こうから掛かってきた電話がそれだった。なんだか怒りが込み上がってくる。
(信じられねえ……)
適当に付き合ってくれそうな女を、思い浮かべてみる。
(その前に……)
俺は携帯電話を拾い上げ、今やっているバンドのリーダーに電話をかけた――。
中学二年の夏に、初めてバンドを組んだ時に、そのバンドのボーカルの女と交際を始めてから、女とバンドを切らしたことはなかった。由美子はこの四月に入学した大学の入学式の日に知り合って、俺が入った軽音楽同好会に彼女も入り一緒にバンドを組んだ。彼女のパートはキーボードだ。俺はドラム。
別れた女がいるバンドなんてやってられない。結局、由美子と別れてバンドもやめた。
大きくため息を吐く――。
がっくりと肩を落とす。まだ信じられない。
(よし!)
憂さ晴らしにナンパでもしにいこうと思い、勢いよく立ち上がった。
俺は行きつけのクラブに来ていた。二階にあるカウンター席に一人で座っていた。中は軽快なラップサウンドで満たされている。
(問題はバンドだよな……)
ビールを飲みながら考えていた。同好会のメンバーを思い浮かべてみても、それぞれバンドに入っていて、掛け持ちでやってくれそうな人も思い浮かばなかった。
(女だったら直ぐなんだけどな……)
さっきから何人もの女が視線をぶつけてくる。でもタイプじゃない。――またか、と思って一応ちらりと流し目を送ってみると、スキンヘッドで濃いサングラスを掛けた男がこちらを見ていて驚いた。
「敦司さん!」思わずその男の名前を叫んだ。
「ナンパか?」
「まあ、そんなとこっス」頭をかきながら答えた。
光田敦司。俺の二年上で、サークルの先輩だ。彼はベーシスト。俺は大学に入る前に一度彼の演奏を見たことがあった。大学に入って直ぐサークルの説明会に出席したときに、彼は少しだけ姿を見せた。その時、直ぐに彼に気がついた。スキンヘッドがとにかく印象的だったからだ。俺はずっと彼と話をしたいと思っていたが、彼はそれっきり姿を見せず話せないでいた。それなのに、彼が自分を知っていて驚いた。
「敦司さん、ずっと見かけなかったんですけど」
「ん、ああ……」敦司さんは生返事を返して、隣に座るとボーイにバーボンを注文した。
俺は、黙って敦司さんの言葉を待っていた――。
敦司さんは、バーボンを一口飲んでから口を開いた。
「やめたんだわ、ガッコ」
「えっ! そうだったんすか?」
敦司さんは残りのバーボンをグイッと飲み干すと、二杯目を注文した。
「ガキができちまったもんでな――。働かなきゃいけねえし、もう三月には退学してたんだよ」
俺は何て答えていいか分からず、目を逸らした。敦司さんも黙って、二杯目に口をつけた。
「あ、あの……、バンドは?」俺は恐る恐る訊いてみた。
「ん、ああ……、やりてえんだけどな――。タイコが見つからなくてよ、たまにギターのヤツと二人で適当に遊んでるだけだ」
「マジっすか!」俺が声を張り上げると、敦司さんは眉をひそめてこちらを向いた。
「なんだよ。ビビらせるなよ」
俺は一気に興奮していた。
「あっ俺、今バンド探してて、あっ、あの――、えっと」
「えっ? お前バンドやってなかったっけ? 一年のやつらだけで、あれどうしたんよ」
「いや、ちっと事情があって……」
「ふうん」と言いながら、敦司さんはカウンターの奥に目を向けてグラスに口をつけた。
「あ、あの……、駄目っすか?」敦司さんの顔を覗きこむように、頭を低くして訊いてみたが、敦司さんは黙ったままグラスに口をつけるだけだった。
「あっあの俺、むかし敦司さんたちの演奏見たことがあって、そんで、そんときのドラムの人スッゲー気に入って――、あの、えっと……あの人って?」
「コウジか?」敦司さんは顔をこちらに向けずに言った。
「えっ、コウジ?」俺は呟いた。
「ん、あっそうか、おめえも光二だっけな」敦司さんはこちらを向いて微笑んだが、直ぐに正面を向き俺に横顔を見せた。サングラスで表情が読み取れないが、寂しそうな雰囲気を出していた。俺は変なことを口走ったかと思い、不安になって目を逸らした。
「おめえとは字が違うけどな。あいつは、三水に告で浩二だ」
「はあ……」俺は返答に困って俯いた。
「あいつは死んだよ」
「えっ!」驚いて顔を上げた。でも、なんて言っていいか分からなかった。
「そんなに、あいつのこと気に入ってたのか?」
「ああ……、ええ……。ドラムもそうなんですけど、叩いてる姿もスッゲーかっこよかったし……」そう言うと、敦司さんは笑みを漏らした。
「俺……、あの人の真似して墨入れたりして……」俺はTシャツを捲って右肩の刺青を見せた。
敦司さんはちらりと刺青を見ると、にやりとしてから正面を向いてバーボンを一口飲んだ。
「あいつは左肩だったけどな」
「えっ! そうでしたっけ?」俺は物凄くショックだった。
(あんなに痛い思いしたのに……、マジかよ)
「俺はいいんだけどよ……」
「ほんとっすか!」敦司さんの言葉を聞いて思わず立ち上がった。
「おまえ、いちいちでけえ声だすなよ」
「すいません……」俺は頭に手をやりながら座った。
「ようは、マコトが気に入るかどうかなんだわ」敦司さんはこちらを向いて言った。
「マコトさん?」
「ああ、ギターのヤツ。おめえはしらねえと思うけど」
俺は頷いて答えた。
「んじゃ、とりあえず一回やってみんか?」
「はい!」俺はまた大声を出して、眉をひそめられた。
敦司さんは残りのバーボンを一気に飲むと立ち上がった。
「じゃ、俺いくわ。さっきから、後頭部に早くどけって感じの視線がチクチクいてえからよ」敦司さんはツルツルに磨き上げたスキンヘッドを撫でながら言うと、階段を下りていった。
敦司さんが席を外すと、直ぐに女がその席に座り、愛想笑いを投げかけてきた。結構好みの女だった。その向こうでは、別の女が悔しそうな顔をしている。
俺はバンドと女をとりあえず確保した。
*
翌日の午後十一時過ぎ、俺はスクーターに乗り、大学のクラブハウスに向かっていた。敦司さんのバンドのテストを受けるためだ。約束の時間はかなり過ぎている。昨日ナンパした女を自宅から追い出すのに時間がかかったからだ。
(くそ! あの女、まさか家出娘だとは思わなかったぜ。もうちょっとで居座られるところだった)
俺はアクセルを握る手に力を込めた。学校は山の中腹にある。周囲は茶畑で、夜中にバンドの演奏をしていても苦情は来ない。茶畑の中を縫うように走る学校までの坂道は、通称学坂と呼ばれていて、急な登り坂でヘアピンカーブの連続だった。中古で買ったこの五十ccのおんぼろスクーターでは、頑張っても時速三十キロメートルしか出ない。俺はそれでもステップに置いたスネアドラムのケースを足で挟んで、気持ちでスピードを上げようとしていた。
学校の入り口に飛び込み、横目で左側の駐車上を見た。白のハイエースが一台止めてある。俺は舌打ちしながらクラブハウスまで急いだ。
クラブハウスの下に着くと、タイヤを滑らせながらスクーターを止めた。ふと、目の前を見ると一台のバイクが止めてあった。ホンダのCBX400F、しかも俺が欲しかった初期型のソリッドカラーモデルだった。
俺は思わず近づいてそのバイクを見た。暗いので黒っぽく見えるが、明るいところで見ればオレンジ掛かった赤いボディーカラーだ。絞り込んだクリップオンハンドル、バックステップ、ヨシムラの集合マフラー。完璧な走り屋仕様に改造されたそのバイクを見て、俺は唾を飲んだ。
「おい、光二」上から敦司さんの声がして、上を見上げた。敦司さんが二階の外廊下から顔を覗かせていた。
「すいません! 直ぐ行きます!」俺は慌てて建物の右側へ走った。鉄の階段をカンカンと音を鳴らしながら急いで登り、二階の外廊下へ出ると、敦司さんはいなかった。ウチの部室の窓だけから明かりが漏れている。
「すいません! おくれちっ……」部室のドアを開けると、正面に彼女はいた――。
胡坐を組んで左側の壁にもたれて座っていた。まず横顔が目に飛び込んだ。化粧気がなく幼い顔立ちだった。高校一年か二年生くらいにしか見えない。でも目が、というか表情が感じられなかった。ぼうと正面の壁を見つめてタバコをふかしている。一つに束ねた黒髪は、肩の先まで伸びている。洗いざらしのTシャツ、胸にはバドワイザーのマーク、下はジーンズ。胡坐を組んだ裸足の足の裏は汚かった。
「早く、入れよ」敦司さんの声にハッとして、十二畳ほどの部室に足を入れた。靴を脱ごうとして汚れた白のコンバースが目に入る。二十四センチくらいかなと、靴を脱ぎながら予想する。
「えっと……」敦司さんに顔を向ける。
「マコトだ」敦司さんは顎をしゃくって彼女を差した。
俺は唾を飲んで彼女に少し近づいて、「俺、光二」と言うと彼女は一瞬、真っ黒な瞳をこちらに向けた。でも、直ぐに無表情なままタバコをふかす。
(ガーン、ショック! 俺の口説き目線を食らって、顔をトロンとさせなかった女、初めて見た――。せっかくサービスでやってあげたのに――。そうか! こいつ超ド近眼なんだ。それしかありえねえ――。て、まてよ……、まさか、マコトって……、男?)
不安がよぎったが、多分女だろうと思うことにした。
「おめえより、いっこ上だぜ」敦司さんの言葉を聞いて、顔を引きつらせた。(うっそ……)
「すっ、すいません! 俺、光二です。よろしくお願いします!」腰を深く折って、頭を下げて挨拶しなおしたが、彼女は相変わらず無表情で、正面を見たままタバコをふかしているだけだった。
(ちっ! ぜってえ、下だと思ったのに。でも、大丈夫かなこいつ。じゃない、この先輩)
俺は軽く会釈してマコトさんの前を横切って、部室の奥の右隅にあるドラムセットに向かおうとした。ふと、左隅に置いてあるギターアンプに立てかけてある、クリーム色のエレキギターが目に入った。塗装がところどころはがれた、使い込まれたといった感じの渋さをそのギターは放っていた。
「おっ、ムスタングっすか」と言った途端にそのギターのネックを掴んだ彼女の腕を見て、俺はぎくりとした――。彼女の左手首に大きな傷跡があった。おそらく、自殺――。そう、思わざるを得なかった。
立ちすくんでいると、マコトさんはゆっくり立ち上がり、自分に背を向けギターを肩に掛けた。
(小さい……)頭のてっぺんは俺の鼻の辺りだった。
小さい背中をぼうっと見つめていると、ギターアンプの上に置かれた吸殻だらけの灰皿でタバコを揉み消し、灰皿の横に置いてあった、セブンスターの箱から一本抜き出してくわえると、シャリンとジッポのライターの蓋を開けた。俺は彼女がタバコに火をつけるのを横目で見て、ドラムセットに向かった。
まず、備え付けのキックペダルとスネアドラムを自分のものに代える。そして、ハイハット、タム、シンバルの位置と角度を調節し、軽く叩いてみる――。セッティングが終わって、「よしっ」と気合を入れながらシャツの肩を捲り上げたときだった。
マコトさんがこちらを見ていた。ぼんやりとした目で俺の右肩を見つめていた。
(んっ? 刺青?)マコトさんの視線を追ってみてそう思った。
なんだか刺青の辺りがこそばゆくなって、思わずそこを擦ると、マコトさんはまた、無表情な顔を部室の中央へ戻した。
ギターを抱えている彼女を眺めた。めちゃくちゃサマになっている。ギターが全く違和感なくなじんでいる。そして、彼女の演奏に少しだけ期待した。
気を取り直し、身体を解すため、軽く適当なエイトビートを刻む。
暫く叩いて、不思議と自分のリズムに自分がノッていると思った――。が、そうじゃなかった。敦司さんとマコトさんがいつの間にか俺に合わせていた。あまりにも自然なんで気がつかなかった。二人に(のせられている)と思った。
敦司さんはバスドラムにジャストでベースを合わせてくる。
(凄い――)
マコトさんは、独特なサウンドでカッティングを刻む。フェンダーのムスタング特有の丸みを帯びた音色が適度に歪んでいる。ジャズコーラス(ギターアンプ)ならではのシャリンとした硬いリバーブ音が微かに重なっている。
(なんだー、気持ちいい!)俺は久々に興奮してきた。
二人に負けまいと、少し複雑なリフを刻んで、得意げにクラッシュシンバルを『パシャーン』と鳴らしたときだった。
(かっちょええー!)マコトさんのギターの音に、思わず尻の穴をすぼめた。さっきまでのラフなカッティングから突然『ギュオオー』っという、うなり声ようなファズトーンに変え、そのままソロを引き出した。クラプトンがチャーのギターを借りてソロを弾いているといった感じだった。
(めちゃくちゃ渋い)実は四十近いおっさんが、女子高生の気ぐるみでも着てるんじゃないかと思うほどだ。
(んっ!)ソロが終わる気配を感じた。軽くタムをまわして、『ピシッ!』とハイハットを強く叩いてアクセントをつけると、『ドッ、ドッ、ドッ、ドッ――』と、バスドラムだけを刻んでみる。敦司さんだけがそのリズムの合間を縫うようにリフを入れる。
マコトさんは、えっ――。マイクスタンドを自分のところに向けていた。
(歌うのか――)俺はわくわくしてきた。(でも、誰の曲やってんの?)
『タン!』と強くスネアを叩いてから、リズムをスタートさせると同時に彼女は息を吸い込んだ。
(低い! そんでもって、めちゃくちゃ、ハスキー)心臓がバクバク打ってきた。なんだか部室の中の空気がいっぺんに引き締まった感じがする。
(どんだけ顔に似合わないことしてくれれば、気が済むんだ!)と思ったが、もう、彼女が実はオヤジでも子供でもなんでも、とにかくどうでもよくなった。今、三人で音を絡めあわせ、一つの音楽を作り出すことに夢中になった――。
一曲やり終え、満足感でいっぱいだった。大きく深呼吸する。そして、汗だくになっていた顔と首をタオルで拭い、手のひらを拭きながら、意外性たっぷりの彼女に目を向けた。
「えっ?」彼女はギターを下ろして、シールドコードを器用に八の字巻きで束ねていた。
「えっ? ちょっと……」俺が慌てて立ち上がると、マコトさんはギターを入れたソフトケースを持って、出口へ向かっていった。「今日は終わりだ」敦司さんの声。目を向けると、彼も出口へ向かう。
(嘘でしょ……)たっぷりと前儀をして、挿入するのを拒否された感じだった。
俺は暫くがっくりとうな垂れ、だらだらと自分の機材を片付けると、部室の戸締りをして下向かった。
(やっべえー、俺、失格だったのかな)鉄の階段をとぼとぼと下りながら、何が悪かったのか考えていた。
下へ降りると、目の前の自動販売機の右横にもたれて、マコトさんが横向きにしゃがんで缶コーヒーを飲んでいた。缶コーヒーを持っている手にはタバコ。敦司さんは自動販売機に向かっていた。
「あの、敦司さん」
「んっ?」敦司さんはしゃがんで缶コーヒーを取り出しながら俺を見上げた。
「あの、俺、駄目だったんすか?」敦司さんは不思議そうに眉をひそめた。そして、ゆっくりと立ち上がる。
「えっ? 合格だろ?」敦司さんはそう言って缶コーヒーの蓋を開けた。
「ほんとっすか!」
「ああ、大丈夫だろ」
「でも、あの、なんか一曲やってムスッとしてでてっちゃうから、俺、駄目なんじゃないかと思って」
「一曲やったじゃん」
「へっ?」
「お前の前に連れてきたドラムのときなんて、ワン、ツー、スリーってカウントとっただけで、あいつ――」敦司さんはマコトさんを指差した。「アンプの電源ブチッて切ったぜ」
「えっ? なんで?」
「ノリが合わないって思ったんじゃないの?」そう言って敦司さんは缶コーヒーに口をつけた。
「カウントだけで?」俺は顔を引きつらせながら、マコトさんを見た。彼女はブラックの缶コーヒーを飲み干そうとしていた。
(なんか、気難しそう……。ヘマすっと直ぐクビかな……)
「でも、おったまげたぜ」敦司さんの声。
「まさか、あいつが歌うとわな」そう言って敦司さんはにやりと微笑んだ。そして、「クックックッ」と声を漏らした。俺は不思議そうに敦司さんを見た。
「相当気に入られたぜ、お前」と敦司さんに言われて、なんだか嬉しかった。
(そうか、惚れたか。実はキュンッてしてたんだろ。ムフフ……)
そう思いながら、マコトさんが座っていたところに目を向けると、彼女はいなかった。『キュルル、フォン!』とバイクのエンジンを掛ける音が聞こえてハッとなった。慌ててそちらに目を向ける。
(げっ!)俺の憧れのCBXの横で、マコトさんはギターをリュックサックのように背負って、ヘルメットを被っているところだった。
(嘘!)彼女はセンタースタンドを立てたまま、CBXに跨る。クラッチを握って、ギアをローに入れる。身体を揺すって、センタースタンドを外す。
「あっ!」俺は思わず声を上げた。倒れると思ったからだ。しかしマコトさんは、倒れそうなくらいバイクを左に寝かすと、足をついて『フォン!』とアクセルを一つ吹かして、アクセルターンを決め、今度は『グオオオン!』と前輪を浮かせたまま目の前を走り去った。
マコトさんが走り去った先を目で追う。もう、バイクの音は遠くなっていた。(嘘でしょ。あんな下り坂……)
「ククク……」敦司さんの笑い声。
「なに、びっくりしてんだよ」敦司さんの眉は思いっきり垂れ下がっていた。
(びっくりするでしょ、普通――)