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無知の恋 Ⅲ


そうして、四人でお弁当を食べていると、茜が何か思い出したように言った。


「そうそう、舞。」


「なに?」


「舞って、修学旅行の自由行動、誰と行くかもう決めてたりする?」


「いや、まだだよ。」


そう答えると、茜は少しホッとしたような顔をして、


「じゃあさ、一緒にまわろうよ。私と、友香と、舞で。」


「あ、私も三人でまわりたいな。」


にこやかにそんなことを言ってくれた友香と茜に少し驚きながらも嬉しくて、


「うん、私も2人とまわりたい。」


そう言った。

なんだか嬉しかった。中学の頃はこんなことなかったから。


「じゃあ、決まりね。」


「楽しみだねぇ。」


「うん!」


そんな会話をしていると、屋上のドアが少し荒々しく開いた音がして、戸田くんが入ってきた。


「春樹…?」


河本くんが驚きながらもおずおずと声をかけた。


「あぁ…遅くなってごめん!」


そう言って、こちらへと向かってくる戸田くんは、笑っていたけどなんだか…"怖かった"。


「なんで、あんたイライラしてんの?」


茜が私たちの前に座った戸田くんに向かってそうたずねたけれど、やっぱり戸田くんは笑ったまま


「別にイライラなんかしてねぇよ?」


そう答えた。

なんだか気まずい沈黙が流れて、私はなにか話さなくちゃいけないと思ったけど、なにも話題が浮かばなくて心の中であたふたしていたら、


「修学旅行…。」


みんなが声のした方に視線を向ける。1番始めに口を開いたのは戸田くんだった。


「修学旅行がどうしたの?」


友香が少し首を傾げながらそう聞くと、戸田くんは俯いてらしくない少し弱々しい声で言った。


「3日目、他の学校とカブるんだとさ。」


「3日目って…」


「東京での自由行動だね。」


「どことカブんの?」


茜のその質問に、戸田くんは少し口籠ってから、やっぱり俯いたまま…というよりは、なんだか友香から視線を逸らすようにして言った。


「附属高。」


「え…?」


戸田くんがそう言った途端、周りの音が突然小さくなったように感じた。

汗がダラダラと流れ出し、昔の記憶が頭を巡って気持ち悪い。

附属高…ふぞくこう…フゾクコウ

なんで??なんでよりにもよってそこなの?なんで…なんで…


「附属って…舞の中学じゃなかった?」


「木梨さんの昔の友達に会えるかもね。」


そう、茜と河本くんが笑いながら言っているのも、どこか遠くの会話のようにぼんやりとしか聞こえなかった。その代わりに、"あの時"の、"あの子達"の声が頭にガンガン鳴り響く。まるで、耳元で囁かれているように。


「…舞?」


返事もせずに茫然としている私を疑問に思ったのか、茜が私の肩を掴んだ。


「え?…あ、ごめん」


それで私は我に帰ったけど、相変わらず"あの子達"の声が耳鳴りを起こして、"あの子達"の顔が頭にこびりついて離れない。

私は今すぐこの場から去りたい気持ちでいっぱいだった。


「大丈夫…?」


私を心配してくれてる茜の手をそっと払って、


「あ、あの、ごめん。私、次の時間移動教室だったの忘れてた…」


そんな苦し紛れな嘘をついて、屋上を出る。


「ちょっ!舞?!」


そんな茜の声を背中で受けながら、私は振り向かずに一気に階段を降りた。その間も、耳元では"あの子達"の笑い声がこだましていた。左手首に嫌な感じがした。



その時、私は自分のことで精一杯で気づいてなかったんだ。

附属高だと聞いたとき、友香も私と同じように肩を震わせていたことに…気づいていなかったんだ。









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