ダンスキングの登場
噴水のまわりでは、フルーツとスイーツたちもお互いをみつめ、ほほえみあいながら 軽快な身のこなしで踊り続けている。
(ちぇっ、どいつもこいつもべたべたしやがって…… )
「へっ、ダンスねえ……」
ライムは人垣をかきわけて前に出た。
ダンスなどしたこともなかったが、見ているうちに、自分にもできそうな気がしてきた。
(なんか、くるくるまわってればいいんだろ……)
「おれっちだってダンスくらいできるぜっ」
さらに前に出る。
(ダンスキングの登場だっ)
心のなかで叫び、小さくガッツポーズをしてみる。
でも、相手がいないと、ダンスはできないことに気がついた。
はしっこのほうにひとりでいるクリームをみつけて、ひとっとびで、そばまでジャンプした。クリームのお嬢さんは、目の前に突然、現れたライムをみて大きな目をぱちぱちさせた。
ライムはちょっと、ためらったけど、
「あ、あの、おじょうさん、おれっちと踊ってくれない?」。おもいきって声をかけた。
あふれんばかりの底抜けに明るい日差しが応援してくれているようにも感じた。
クリームは、うつむいて何かちいさい声でいった。けれどアップテンポになった楽団の音にかき消されて、よく聞こえなかった。
ライムは、きっと、ちょっとはずかしがりながらも、「ええ、いいわよ」とか「オーケーよ」といったんだと思い、すこしためらいながらもクリームおじょうさんに手を差し出した。
音楽がさらにテンポをあげて、噴水が大量のレモンやオレンジのジュースをいきおいよく高くふきあげた。その音楽とジュースのいきおいを借りるようにして、ライムはむんずとクリームおじょうさんのきゃしゃな真っ白い手をつかんだ。
「レッツダンスっ!」ライムは叫ぶと、がにまたで、どたどたとステップを踏んだ。われながら、なにか変だ、と思った。
(見ていたほど簡単じゃないな……)焦ればあせるほど、動きはぎこちなく、もっとおかしくなっていった。
周りをちらと見ると、フルーツの男の人が軸になって、お菓子の女の人がくるくると、円を描くように回っていた。みんな同じ動きをしている。
みなにあわせようと、クリームおじょうさんの手をぎゅっと握りなおすと、ぐるぐる振り回した。
(あれっ、なんかスピードが出ないっ……)
ライムはあせって、力任せにクリームおじょうさんをいきおいよく回転させた。おじょうさんの足がもつれる。
「ちょ、ちょっと、いたーい」
乱暴にひっぱられて、うでがびよーんとのびたクリームおじょうさんは悲鳴をあげた。
「あ、ごめん、ごめん」ライムはあわてて手をはなした。クリームおじょうさんはそのいきおいで、ふっとんで、そばで踊っていたバナナとクッキーのペアに激しくぶつかった。
「きゃあ!」「わあ!」
バナナ・クッキーペアはころんで、隣のナッツとパパイヤペアにぶつかった。このペアはそばで踊っていたチェリーとマシュマロのペアに向かって倒れこんだ。そのとき、さらに隣のペアを巻き込んだ。
こうしてつぎつぎにドミノ倒しみたいにダンサーたちが転んでいった。
「なにするのよーっ!」
「いてててっ!」
ダンス会場はたちまち、悲鳴やどなり声などで覆われた。
「あ、あれ……」
ライムはいそいでクリームおじょうさんを助け起こしたあと、広場をそおっと、おそるおそる見渡した。
「あ、あのお……」ライムは自分のしたことの結果におどろいて、しばらくその場に立ちすくんでいた。
でもどうしたらいいかわからず、とりあえず、その場から逃れるように大きくジャンプした。