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7 フルーツパフェダンス

体のちいさなライムは、人だかりにさえぎられて、広場のなかほどで行われているものが見えなかった。ぴょんぴょんとびはねて、人だかりの向こうをのぞく。

そこでは、優雅な音楽の中、ドレスや黒い背広みたいな立派な服に身を包んだ男女が、それぞれ向かい合って踊っていた。二、三十組はいるだろうか。


よく見ると、ほほえみあいながら優雅なステップを踏んでいるぺアは、ちょっとかわった組み合わせだった。

見慣れないひとたちとフルーツがペアになって踊っているのだ。

「あ、あれは……」

ライムは、ようやく気づいた。

見慣れない人たちは、お菓子のようだった。

メロンとウエハス、イチゴとクリーム。オレンジとジュレ、キウイとクッキーチョコなどのペアだった。


ライムはひとだかりをかきわけて、広場に出た。

ぽかんと口をあけて、その優雅な動きを見ていた。ダンスもおかしもほとんど見たことがなかった。

そばで、カップルらしいオレンジとグレープフルーツが話しているのが聞こえた。ふたり寄り添って、うっとりとダンスを見つめている。

「ほんと、みんな息がぴったりね」

目を輝かせたオレンジが胸の前で手を合わせた。

「そうだね、お菓子さんたちは、この日のために遠いスイーツタウンからわざわざ来てくれたんだよね」グレープフルーツはほほえみながら答えた。

「ほんと、あたしたちの豊作祭りを、お祝いしてくれて……ありがたいわね……」

オレンジはグレープフルーツの顔をみあげて微笑み返す。

「でも、スイーツさんたち、来たばっかりでしょ……」

 オレンジが首をかしげる。

「ペアでの練習はそんなにしてないはずなのに、どうして、あんなに息ぴったりに上手に踊れるのかしら」うっとりとダンスを見ながら、つぶやくように言う。

「お空の上のニンゲランドでは、フルーツパフェって食べ物があるんだって……」とグレープフルーツが微笑みをたたえたまま、やさしくオレンジを見下ろす。

ニンゲランドとは、人間の住んでいる世界のことだった。

「ええ、ああ、フルーツとお菓子がくっついた食べ物ね」オレンジも微笑む。

「そう、だから、もともとぼくたちフルーツとスイーツさんたちとは相性がいいんだよ」

グレープフルーツは優雅に踊るペアたちにやさしげな視線を戻す。

 「ぼくは、ニンゲランドに行ったことも見たこともないけど、ニンゲランドのことはフルーツェンに、そしてぼくらフルーツに影響を及ぼすからね……」

「ええ、そうよね……」オレンジはやや上をみあげる。

「あたし、いつか行ってみたい……」

ささやくように続けた。

「でも……」

ふと、不安げにオレンジはちょっと目をふせる。

「オレンジとグレープフルーツだって相性、いいわよね……」

小さな声で言ってから、ちら、と大柄のグレープフルーツの顔をみあげる。

グレープフルーツはおおらかに笑う。

「あたりまえじゃないか。ぼくらの相性は世界一さ。ニンゲランドの最高の恋人たちにだって負けない」。

グレープフルーツは快活に言って、やさしくオレンジの肩を抱き寄せる。

「きみは、スイーツよりずっと甘いよ……」

グレープフルーツは輝く白い歯を見せる。

オレンジは大柄おおがらなグレープフルーツによりかかって、うつむきかげんに、ふふ、とちょっと恥ずかしそうに笑う。

「あたしたちも、あんなふうに息があった暮らしをしなくちゃね」とささやくように言った。

ふたりの柑橘類はぎゅっと手を強く握りあった。



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